『いえない時間・夏樹静子ミステリー短編傑作集』夏樹静子(光文社文庫)
男女のすれ違いと愛憎、人生に待ち受ける思わぬ陥穽、驚愕の結末――夏樹静子氏がその作品でミステリー界に残した足跡はあまりに大きい。本書は弁護士・朝吹里矢子、検事・霞夕子の人気シリーズから、夫婦の心の機微を絶妙に切り取るショートショート作品まで、初収録の作品のみで編んだ短編集。褪せることのない夏樹ミステリーのエッセンスと輝きを楽しめる一冊。
2016年11月9日発売 定価:748円(税込み)光文社文庫
「不作為の罪」朝吹里矢子法律事務所に平ちえみから、父の平昌臣61才が三浦半島の浦賀の近くの海で、後妻の恵利と泳いで溺れて亡くなったという。その時に父が溺れている傍まで、運転していた萩尾がクルーザーから身を乗り出して溺れている父を見て行ってしまった。死因は溺死だが、クルーザーが救助してくれていたら助かったかもしれない。運転していた萩尾は罪にならないのか。朝吹里矢子は後妻の恵利が、泳ぎに出る前に昌臣に睡眠薬を飲ませていた、そして萩尾と協力して昌臣を殺そうしてたのをつきとめる。
「現行犯」資産家の有馬巌の息子・真吾の妻・由美乃は、ほっそりとした美しい女である。巌は由美乃を強姦した。由美乃は二世帯住宅に同居する義父に、いつ襲われるかと恐れている。それを高校の二年先輩で、占いがあたると評判の青山でスナックをしている泉亜子に相談する。義父を痴漢で現行犯逮捕する計画を持ち掛けられる。その裏で泉は巌を痴漢を装って殺して、由美乃から2億円を脅しとるのを考え実行した。警察では事故として扱われたが、朝吹里矢子が謎を解くことができるか。
「いえない時間」スナック「えり華」の雇われママ大塚君江25才が刺殺されて、学芸大学駅で中華料理店を営む笠貫完治54才が110番した。犯人として大学三年生の牧口元裕が逮捕されたが、言うことがあれこれ変わる。
取り調べを担当する任官4年目の霧生朝美検事と、上司で釧路地検帯広支部長から二か月前に再び東京地検へ異動になった霞夕子副部長は事件を調べなおすと、7年前に牧口の親友・沢井陽平が君江の運転する車にはねられて亡くなっていたのが分かる。同乗者は笠貫で、君江は犯罪を証明できなくて不処分となったが、霧生はこの判決に違和感を覚えて真相究明にのりだす。中編小説のボリュームがある二転三転する謎解き。
「熱い骸」主婦・津川美秋は熟睡している夫に、水に溶かした睡眠薬を口から少しずつ点滴して犯行を遂行しようとするのだが。
「二つの炎」妻の死を利用して、愛人を葬る計画をする。妻の火葬許可書をなくしたと、偽り再発行してもらう。一枚を使って妻の実家へ、愛人の死体を運んで葬儀をする。そして帰って来て妻の火葬を行なうのだった。
「丁字路」隣のベットで眠っている夫が「メル…メル、メル!」と聴いた妻は疑念を抱く。犬を手がかりにして、近隣の土地を探索するうちに、メルと呼ばれている犬を連れている不倫相手を突き止める。
そして飼い犬アンを愛する夫婦は、アンをどうするか話し合い、道の両側に分かれてどちらにアンが来るかで決める。だがアンはどちらにもいかず、これまで通りの暮らしがいいと答えるように、マンションの玄関へ向かって走っていくのだった。
「リメイク」今西隆平と妻・冬子は、山本宝石店に行くと店長が、「いやあ、この間はどうもありがとうござ……」と言って、途中で冬子の存在に気が付いて挨拶がとまった。冬子は夫がこの前に何を買ったのか気がかりだった。そして夫の愛人である辻香苗を知って、夫婦の亀裂が始まって行くのだった。
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