『ら抜き言葉殺人事件』と関西方言について
『ら抜き言葉殺人事件』島田荘司
ピアノと日本語を教えている笹森恭子が、自宅のベランダで首吊り自殺をした。部屋には、ある作家に誤りを指摘した手紙に対する返信が残されていた。警視庁捜査一課の吉敷竹史は、現場に不審を抱き、殺人説を唱える。そんな時、またもや自殺者が。しかも、恭子に来ていたのと同じ作家からの葉書が…。本格推理の鬼才が、現代の世相を鋭く抉った異色の長編力作。
〈あらすじ〉
女性がマンションで自殺をして、彼女と文通があったと思われる作家が同じ日に刺殺されていた。女性は作家に脅迫めいた手紙を送って、彼女による逆恨みによる犯行として事件は片付けられようとしていた。だが吉敷刑事は事件を追い続けて、その裏に潜み意外な事実を掘り起こしていくのだった。
「ら抜き言葉」に異常な反発を持つ笹森恭子に、ら抜き言葉を使った異様な嫌がらせを受けている作家の因幡沼耕作、その大ファンであると目される妊婦の鯨岡里美の三人が相次いで亡くなった。
因幡沼は他殺、他の二人は自殺と思われたが、吉敷はその捜査により、因幡沼は笹森に脅迫電話や投石などの嫌がらせをしていたことがわかり、鯨岡は因幡沼の愛人であった。
因幡沼は笹森恭子に殺されて、笹森は自殺し、鯨岡は因幡沼の死をラジオなどで知ったあと、後追い自殺をしたと考えられる。だか真相はそうではなかった。
〈以下ネタバレ有り〉
神戸に行って聞き取りをするのだが、会話に関西言葉がひとつも出てこない。
神戸周辺に住んでる人が、全部標準語を話している。中央区での場面でも、関西弁はなくて、神戸に知人がたくさんいる身には、セリフはあまりに不自然なものである。
(笹森がなぜ、ら抜き言葉にこだわるのかを調査するために、吉敷刑事は神戸まで行っているのに意味がなかったようである。)
後半ある女性が語る「たちまち今夜の二人の食事をどうなさるおつもりなんです?」というセリフで、「たちまち」って広島弁。
「たちまち」は、とりあえずという意味である。居酒屋では「たちまちビールください」というらしい。作者の島田荘司さんが広島県福山市生まれなんですね。笑
大阪弁はもともと「ら」抜き言葉。
「見られない」は「見れへん」、「寝られない」を「寝れへん」、「食べられない」「食べれへん」という(「へん」は「ない」という意味)。
大阪は商人の街。コミュニケーションを大切にする。たくさん話したいから、「助詞を省略したれ!」助詞がなくなるとわかりにくい、ほんだら動詞自体を変えたらええねん。ら抜き言葉が生まれたのだろうか。
確かに巻き舌発声の「ら行」は、話し言葉として燃費がよろしくない。
島田荘司『ら抜き言葉殺人事件』は1991年刊行で、その少し前から「ら抜き言葉」用語が注目され、乱れた国語として広まった。確かに誤用であり、言葉は正しく使うべきだと言われる。
しかし関西人は日常会話において、無意識にら抜きを使ってきている。果して本当にら抜きは乱れた日本語なのだろうか。
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