内田康夫・推理傑作選『死線上のアリア』
ヴァイオリニストが名器・ストラディバリウスで「G線上のアリア」を弾いた瞬間ダーンという大音響が響き、ステージのすぐ前の紳士が倒れた。凶器は被害者の胸ポケットにあったピストル。自殺か、それとも?
ユーモラスなキャラクターも登場する、短編集に以下の7編収録されている。
長編小説の浅見光彦シリーズを読み慣れている人には、短編集は物足りないかもしれない。けど冗漫に感じてしまう人には、ソリッドな展開も味わえる。
「優しい殺人者」
スナックを三箇所も経営する傍ら、もぐりの金融業を営んでいた女性が殺された。遺体の状況は着衣の乱れもなく、うたた寝でもしているかのようだった。犯人は借金をしていた男なのか、それとも秘書の女なのだろうか。警視庁の福原警部に捜査依頼をしたが、現場の小野刑事はこの人で良いのかと疑問を抱く上り詰めるだった。福原警部は外見とは違って、頭の回転が優れて良く、小野警部が集めた情報から、事件を解決していく。
「死あわせな殺人」
福原太一警部の登場が続く。ドラマでは石塚英彦が演じているようである。
車の中で男女遺体が発見された。二人は共に毒物を飲んでいたので、心中事件だと思われた。しかし福原警部は殺人事件だと睨んだ。
ダブル不倫をしていた心中らしいが、お互いの配偶者は美男美女で、不倫をするとは思えない不細工ぶりなのだが?
「交歓殺人」
軽井沢で殺人事件が起きる。1人が1人を刺し殺した後に、首を吊って自殺したという。姉の夫から「妻が君の夫と浮気している」と証拠を見せられて、義兄と関係を持ってしまった妹。その現場を姉と夫に見られてしまい、夫はお互い様だというが妹は許せない。そして義兄弟同士が「姉を殺して妹を自殺に見せかけて殺せば、遺産は俺たちのものだ」と計画していた。そんなところへ殺人事件が起きたのだ。
「飼う女」
平凡たる主婦に、料理上手な母が家族の食卓を握って飼い慣らされていた。
ペットショップの若い男性店員と知り合い、不倫関係になる。それが家族にばれそうになり、不倫相手を殺そうかと思い悩んでいると、テレビニュースで彼が死んだのを知る。
「願望の連環」
会社で金貸しを副業としてる独身主義者の女が、社内の男に殺され心中した。
女の恋人だった沢田と、女から金を借りていた課長が、協力して女を殺す計画だった。課長は沢田のアリバイ作りをしていた。しかし沢田は殺人遂行せず、無理心中と判断されるのだ。
「死線上のアリア」
バイオリンの警備を頼まれて、リサイタルに行くと、会場で発砲事件が起きる。男性客が1人死亡、犯罪捜査用スーパーパソコン『ゼニガタ』に推理してもらうと、犯人はバイオリニストだという。鴨田英作が正確な情報を与えられず、ゼニガタの推理が二転三転するお笑い展開。
「碓氷峠殺人事件」
デブキャラの福原警部がまたまた登場する。峠の釜飯を食べ損ねた福原警部は、名画盗難の捜査に軽井沢へ来たはずだった。途中で出会った男性に誘われて、音楽を聴きながら鱒料理を食べれるレストランへ行く。だが肝心のピアニストは到着せず、彼女は遺体で発見される。通称『展望台』というパーキングエリアの片隅で、車の助手席に死んでいた。はたして犯人は誰なのか。料理を食べ損ねた福原警部が「あいつが怪しい」と順繰りに捜査するのだった。
疑惑の矛先は音楽演奏で、恨みを持つ演奏家たちへ向けられた。驚いたことに軽井沢へやってきた、演奏家の連中すべてに殺害の動機があったのだ。
元々はカッパノベルス刊行なので、松本清張など既存の推理作家と比べてられがちだけど、どれもテレビドラマに脚色すれば、コミカルな配役になりそうな話となっている。軽妙な展開は手軽に楽しめるエンタメとして、この短編集は組まれたようだ。
トキワ荘のマンガ家さんたちが描いた、線の省略されたポンチ画風を連想してしてしまう。情景描写が長編の文体になる場合もあり、テンポが引き伸ばされることが時々あるようだ。
内田康夫 1934年、東京都北区生まれ。コピーライターなどを経て、1980年、自費出版で『死者の木霊』を発表。この作品が、「朝日新聞」の読書欄に取り上げら れ、自費出版としては異例の注目を浴び、鮮烈なデビューを飾る。その後、『後鳥羽伝説殺人事件』で、後に国民的名探偵となる浅見光彦をうみだし、押しも押 されもせぬ人気推理作家となる。浅見光彦シリーズは『棄霊島』で光彦100事件目を迎えた。また、同シリーズはドラマ化もされお茶の間でも人気の存在に。
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