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2023年9月25日 (月)

『地検のS』伊兼源太郎

『地検のS』伊兼源太郎

あの男は一体何者なんだ――?

湊川地検で起きるすべての事の裏には、必ずひとりの男の存在があった――湊川地検総務課長・伊勢雅行。

検事でもない総務のトップがなぜ……

「絶対悪」が見えにくい現代において、「検察の正義」とは何なのか。元新聞記者の新進作家が挑む、連作検察小説。

(図書紹介より)


連作短編形式で構成されて、湊川地検の総務課長=S=伊勢が、各話主人公となる人物へ多大な影響を与える五つの話。

湊川とは作者が新聞記者のころ派遣された、神戸中央区がモデルになっているようだ。

単身赴任してた神戸体験あるので、本書を手にしたきっかけとなる。


「置き土産」

地裁の司法記者クラブ一員の東洋新聞・沢村は、実績=特ダネをものにして本社政治部への異動を希望する記者である。

司法クラブ所属の他社記者が特ダネを出して、上司にプレッシャーをかけられる。特ダネをゲットしないと政治部への転勤はないと脅されて、必死に事件を探す。

ある小さな窃盗事件の裁判に出くわして、その裁判には地検総務課長である伊勢が傍聴していた。この裏に何かあるのではないかと、事件の真相を探っていく。そしてたどり着くのは、警察と地検による冤罪『創罪』で、世話になった刑事OBと伊勢が深く関与していた。

すべてを知った沢村は、本来あるべき無罪の記事を書かないことにする。伊勢雅行から突然に暗黙の褒美として、別件の特ダネを受けることになり、「置き土産」となるのだった。


「暗闘法廷」

女性殺害事件を担当した森本検事の検察事務官・新田耕平が主人公。被告人は裁判で訴訟引き延ばし戦法で、検事に対して曖昧な返答ばかりする。挙句に犯行を否認する。被告は自白しているが、その調書を証拠にしないよう、森本は次席検事に厳命されている。彼は湊川地検のエースで、東京地検特捜部への移動も近いという。

そんな折に伊勢雅行からの何気ないアドバイスで、事件の裏に真相が隠されてるのを察知して、検事調書を証拠申請して被告の有罪が確定する。森本は大分地検に飛ばされるが、新田はその真相を知る。伊勢のアドバイスが大きく影響して、優秀なる森本検事の証人のやくざとの駆け引きが大きな獲物を捕らえる。


「シロとクロ」

刑事事件に重きを置く弁護士事務所に就職した若手弁護士・別府直美が語り手。

彼女が担当した25歳の不良青年の傷害致死事件で、加害者は自白していた。だが警察の取り調べをこっそり録音して、法廷で証拠として提出された。違法な取り調べがあったので、無罪が濃厚となる。

しかし被告の人間性や親が被告を懲役にしてほしいと懇願するが、別府は無罪主張には躊躇してるのであった。

そんな彼女のところへ伊勢雅行が現れて、善悪と法律について何気ないアドバイスを受けたい。「被告人に過去を悔い改めた節はありますか。」別府の頭の片隅では伊勢の言葉が浮かんでいた。関係者を洗い直して、新たな証言から被告人が未だ更生していない「悪」だと確信して、被告が共謀して振り込め詐欺をしていたのを調べ上げる。果たしてシロかクロなのか?


「血」

女性検事・相川晶子が主人公である。小規模建設会社が有力政治家に贈賄した疑いで捜査を受けて、その会社に勤務する女性社員の口座を迂回した疑いがもたれ、相川が任意で取り調べるが、誰からの入金かを語ろうとしない。

その女性社員の永島亜美は札幌出身で、湊川の独身生活で苦労した経験があり、かつて子煩悩だったはずの夫から暴力を受けていた。さらに離婚話が持ち上がり、子供にも暴力をふるった夫を包丁で刺し殺して執行猶予判決を受けた過去があった。

ここで伊勢雅行が登場して、事件で悪を追及するには3つのS「正義・親身・真相」について相川に語る。かつて永島が罪を犯したときに検察事務官であった伊勢は、彼女を見続けてきたこと、再犯を犯す人間ではないのを示唆する。もう一度永島の周辺を当たり、息子から母親の事件への痛ましい真相にたどり着く。真実が必ずしも正義へと導いてはくれない、3つのSを決断が待ち受ける。


「証拠紛失」

総務課職員・三好正一は、先輩の伊勢雅行から贈収賄事件の証拠を、誰が紛失したのか調査の依頼を受ける。

彼は優秀な事務官だが将来的なことを考えて、捜査を指揮する鳥海部長から伊勢の弱みを握れば、将来を保障する話に乗ってスパイ行為ごどきもやっているという。

3日間に紛失先を探すために、関係者に聴取して、頭の中は混乱状態になっていく。

伊勢に対して抱いていた、ある種のうさん臭さの原因を知って、自分が進むべき方向を模索し続けて、ついには決断を下すのだった。

地検総務課長である伊勢は、司法試験を簡単に受かる実力がありながら、決して検事にも裁判官にも弁護士にもなりたくない、理由があったのが最終編で明らかになる。


これらはドラマ脚色次第では、テレビ番組になるようなエピソードが続いている。

モデルになっている神戸港街が、舞台になってるのも魅力ある視覚的なる背景にだろう。


伊兼 源太郎(いがね・げんたろう)

1978年、東京都三鷹市生まれ。上智大学法学部卒。新聞社勤務を経て、2013年に『見えざる網』で第33回横溝正史ミステリ大賞を受賞。著作に『事故調』『外道たちの餞別』『巨悪』『地検のS』『金庫番の娘』『ブラックリスト 警視庁監察ファイル』『密告はうたう』。

https://kadobun.jp/feature/interview/8n4pbs72q5s8.html

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