『茶とプール―完全殺人事件』多岐川恭
不動産会社社長のお屋敷で起こった怪死事件を巡る本格ミステリ。雑誌社に勤める輝岡亨は、星加邸を訪れた折に、居合わせた人々の間に漂う違和感を察知する。その場の不穏な雰囲気が、やがて人ひとりの死を招くことになる。殺害された人物は皆に疎んじられて、誰もが殺意寸前の感情を抱いていた。
果たして犯人は誰なのか? そのトリックは? (1961年)
週刊レディ社に勤める輝岡協子は同僚友人・星加卯女子の家を訪れた。その日は卯女子の兄・要の誕生日で、家族と幾人かの友人でパーティーを催していた。
そこに週刊レディ社に勤める協子の兄・輝岡亨もくる。亨は妹とアパートでの二人暮しだが、玄関の鍵を失くしたと協子の鍵を借りにきた。
卯女子から勧められパーティーに加わった亨だが、その場には何やら微妙な空気が漂っていると気づいた。客のなかに要の恋人・まゆり、そして要と結婚すると広言してる永井百々子が同席していた。しかも百々子の父親は銀行の頭取で、要の父が経営する会社に融資をして、要の両親はぜひとも要には百々子と結婚してほしかった。
そして百々子の性格が悪くて、政略結婚の相手と認めつつも、家族の誰もが内心では彼女を嫌っている。
それから事件は起きた。プールで溺れかけた百々子が、体を温めるために飲んだココアで毒殺されてしまうのだった。
青酸カリが何者かによって、ココアに入れられたのだが、パーティーに参加した人間以外には考えられたかった。一体誰が?
動機や状況を推測しても、空転するばかりであった。
著者のことば「小ぢんまりしたサロン小説」であり「主人公はジュリアン・ソレルの亜流」というくらい、ミステリーの規模が大きく広がらないのが特徴。フランスの心理小説に近い、推理よりも人物描写に可能性を求めた作品かも知れない。
事件後に主人公が週刊レディ社の美人女社長に、迫られて情交して色んな会社の背後を知ることになる。同時に星加卯女子とはパーティの時から、相思相愛の関係となつて発芽へ対して女社長が敏感に反応したらしい。この三角関係が後半のストーリー展開の根幹となっていく。どちらも魅力的な女性であり、艶めかしい描写などもサービス満点な作品。
犯人は意外にも目前にいて、女社長と肉体関係のあった永井百々子の父親から追求される。本格ミステリとは一風変わった意気込みを感じる著者の初期長編。
多岐川恭
1920(大正9)年、福岡県北九州市生れ。東京帝国大学経済学部卒業。 1958年『濡れた心』で江戸川乱歩賞受賞。1959年『落ちる』で直木賞受賞。1989年紫綬褒章受章。主な著作に『ゆっくり雨太郎捕物控』シリーズ、『氷柱』『用心棒』『色仕掛 闇の絵草紙』『暗闇草紙』『春色天保政談』『レトロ館の殺意』等多数。享年74。
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