『人間の海』森村誠一(光文社文庫)
駅のホームで突き落とされそうになる。見知らぬ車に乗せられて誘拐されそうになる――。
有数の財閥・山上グループの社長令嬢・山上かおりは何者かに命を狙われていた。困り果てたかおりが逃げ込んだのは、社会からドロップアウトし、奇妙な経歴を持つ八人が住む“梁山荘”というアパートだった。
八人はそれぞれの特技を生かして襲撃犯からかおりを守り始める。かおりは目撃者として、棟居刑事の捜査する殺人事件の参考人に挙がっていた。
事件は意外な接点で繋がり始める……。
都会で蠢く人間の友情と殺意を描く、傑作社会派ミステリ。
「互いに無関心に生きている都会の中で、隣人たちが互いに助け合って生きるのは素晴らしいことだ。きみが梁山荘の住人たちの連帯の源になってくれたんだよ。きみや弥生さんがいなくなると、梁山荘はずいぶん寂しくなる。しかし寂しさに耐えて生きるのも、都会に住む人間の宿命なんだよ」
梁山荘の八人が魅力あるキャラクターで、かおりを小鳥のように大切に有り難がってドラマは進行する。
かおりも窮屈な家には帰りたがらず、自由に自立する自身の生き様を堪能してゆく。そして梁山荘の描写が面白いのが、作者の執筆力であろう。角川春樹さんが全盛期の頃に、市川昆監督で映画にしたらイメージで読んでみた。キャストをあれこれ想像するのも小説ならではの愉しみ。

★★★★
森村誠一
1933年1月2日生まれ、埼玉県熊谷町出身。幼少の頃から読書を好み、冒険小説や探偵小説に熱中。1945年、太平洋戦争最後の空襲と言われる熊谷空襲で被災したことが、作家を目指す原体験となった。
大学卒業後、ホテルマンとして勤務するかたわらサラリーマン向けのエッセイを執筆。その後、推理小説に挑戦し1969年『高層の死角』で第15回江戸川乱歩賞を受賞した。1973年には『腐蝕の構造』で第26回日本推理作家協会賞を受賞。1976年、角川春樹の依頼で『人間の証明』を刊行して、翌年には映画版が公開され大ヒットとなった。1983年以降は『忠臣蔵』など歴史・時代小説も手掛けたほか、1999年小説家を育成する「山村教室」の名誉塾長に就任。
2008年から「新・おくのほそ道写真俳句紀行」をスタートさせるなど幅広い活動を行った。2003年に第7回日本ミステリー文学大賞、2011年に時代小説『悪道』で第45回吉川英治文学賞を受賞。2023年7月24日、90年の生涯を閉じた。
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