『棟居刑事の絆の証明』森村誠一
棟居弘一良は気軽な単独で後立山縦走を試みる途中に、トレッキングツアーのグループと出会った。そして山頂でグループの女性から、六人集合写真の撮影を頼まれる。シャッターチャンス抜群の写真は、後にお互い素性不明な彼等の運命をかえることになる。
山を下り刑事の日常に戻って、新聞で見覚えのある顔の新人作家紹介記事と出会った。その作家・蒔田直之のホームページを検索すると、詳しい情報や記録がアップされて、後立山の縦走のとき自分が撮った写真が掲載されていた。蒔田はツアーのメンバーだったらしい。勤めていた会社が倒産して妻とも離婚して、自棄の気分転換でトレッキング・ツアーに参加後に運気が変わり、一千万円懸賞小説に応募当選して作家デビューする。あの登山参加体験がヒントになっていた。そして作家が話題となり、下界での干渉がはじまったり
そのツアーに参加した一人に岡野種男という探偵がいた。仕事の依頼が全くなく干上がっているとき、運よく女性から仕事の依頼を受けた。その斉藤加奈絵もツアーに参加した一人で、依頼内容は行方不明になった姉を探してほしいと。海外旅行へ帰国後も予定を過ぎても戻らない。
赤坂の料亭に男と泊まっている女を見て、玄関番の辻岡ははっとする。あのツアーに参加していた女に似ていた。どうやら大金の受け渡しをしたらしい。他人の空似なのか?
そんなツアー参加したメンバーの身辺に、予想外の殺人事件が起きていた。
行方不明になった斎藤の姉に勤務先の銀行は、岡野に対して非協力的だった。何か銀行にとって都合の悪いことがと、勘ぐってしまう。失踪者に対して警察も、いずれ乗り出すことになる。捜索願いのニュースが出れば、妹の情報など同行したツアーメンバーも記事を読んだ。歳の差も近く似てる姉妹に、辻岡は反応した。自分は警察が知らない情報を把握しているのかも知れない。登頂した女性メンバーに再会できるかもと都合良く解釈して電話する。聞き覚えのある声に、斉藤加奈絵は姉の手掛かりを求めた。料亭従業員から姉と泊まった男のことは、詳しく知ることができた。
「ツケをしっかり払って、夜逃げした」という。警察に情報を届けるべきだと判断する。
ご都合よろしく偶然の出逢いが続いているが、何故か読ませてくれる。
「ようやく解放された時、暑くもなきいのに、腋の下が濡れていた」とか実在するような、作者の人間描写による賜物だろうか。出版プロデューサー角川春樹さんがお気に入りの作家さんだと分かる文章。
〈物質中心の社会になって、人と人との結び付きが希薄になっている現代ににおいて、人間のこういう出逢いと結び付きがあることに、彼らは新鮮な感動をおぼえていた。〉
このアイデアは中編にしたほうが良いと思うほど、中弛みが多い展開。長編ミステリーを丹精に、きりりと描く困難さを感じる。でも最後まで読ませてくれるのは、プロの手腕であろうか。
『棟居刑事の証明』でも犬が上手にドラマに使われていた。嗅覚の良い犬は懐く習性などイメージしやすい。動物を小説に有効に書けるのは筆力だけではなくて、あと自然描写などがゆとりあって、他のミステリー作家より断然に読みがいがある。
棟居刑事シリーズの傑作。★★★
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