『棟居刑事の証明』森村誠一
政財界に大きな影響力を誇っていた大物総会屋・税所重信の変死体が雑木林で発見された。政財界に衝撃が走った。
棟居(むねすえ)刑事の捜査線上に浮かび出したのは、被害者と夏の終わりの海水浴上で偶然出会った6人。
発見者の少女、小指の欠けた男、煙草に火をつけてくれた女、7人の男女の悲劇が複雑に交わる。
殺される者にはそれだけの、負のエネルギーを受ける大きな悪徳があったのだ。殺してやりたいと思われる税所重信だった。女癖が悪くて、複数から憎まれていた。殺したいと考えてた人物と偶然にあって意気投合する。
「八方悪人」というべき税所重信は、救いのない人物であり、実在しないほどの悪辣な行為を続けていた。ある意味ではリアリティーが希薄である。
金銭と損得、体面と保身、男と女、欲望と殺人。
棟居刑事が真相を証明すべく関係者と会うと、夏の終わりに熱海の砂浜へ集まった六人がそれぞれに別のつながりで事件に関わっていた。
偶然なのだろうが、一人ひとりはあの夏を懐かしんで、もう一度会いたいと望んでいたのである。
死への渇望から扉を開いていた少女と、病魔に侵されている年長者は、海の彼方に現実を観ていた。あり得ない同窓会を想っているが、人間としては現実感のある思惑が深く描かれている。人間の本質に鋭く迫る長篇ミステリー。★★★
百年後には
その場所を知る人もいない
そこで演じられた苦悩も
平和のように鎮まる
雑草が無遠慮に広がり
見知らぬ人はさまよい歩いて
昔亡くなった人たちの
孤独な墓碑銘をなぞり読む
夏の草原に吹く風が
この道を回想する
記憶からこぼれ落ちた鍵を
本能が拾い上げる
(エミリー・ディキンソン「After a hundred years 」より)
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