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2024年2月 5日 (月)

『空洞の怨恨』森村誠一傑作短編集

表題作「空洞の怨恨」は小説現代のゴールデン読者賞を受賞した傑作。

著者の代表的な短編小説を読むことができる。


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「二重死肉」★★★

ねずみは人間に害を及ぼす生き物、残飯を荒らす食害のほか、ペスト菌やサルモネラ菌などもばら撒く。有田修は、ねずみに異常な嫌悪感を持っていた。怨敵と戦うために、有田はねずみ捕り会社を設立する。家の中に閉じ籠って、ねずみを研究した。彼の開発した、人畜無害の新殺鼠剤ラトールの評判が良く、業績も順調に拡大していた。更にねずみの天敵である、三毛の牝猫や黒の牡猫の鳴き声を録音した機具を開発。それを閉店後に無人になった店内へ、流すと効果が絶大で評判になった。こうして会社は急速に発展して、数々の代理店を抱えるほどになった。何故これほどまでに、ねずみを憎むのかは訳がある。有田は都内にある薬種会社に勤めていた。その会社には評判の美人社員がいて、会社の男性社員のみならず、界隈の会社の男性社員たちまでもが、彼女に注目していた。高嶺の花と諦めていたが、何故か彼女が有田を見染めてしまった。彼女の気持ちが変わらないうちに、プロポーズしたところ、あっさり承諾してくれ、直ぐに結婚した。美知子と結婚して、長女の梢が生まれた。家庭は有田にとって世界で一番の楽園だった。だが突然、悲劇が起こった。会社を辞めて、家で留守番をしていた美知子が、買い物のために外出した合間に、サークルの中で眠っていた梢にねずみたちが群がった。ミルクの臭いに誘われたのだろう。美知子が帰った時には、間に合わなかった。娘を失ったのは、美知子の責任では無い。だが一緒に連れて出ていれば、この不幸は免れたという思いがある。夫婦関係もギクシャクし始めて、忘れられるものではない。

こうして夫婦の間に、割りつけられた溝は、無くなる事はなく、大きくなるばかりだった。そしてどちらからともなく別れようと言い出した。この時から、ねずみに対して激しい怨念を抱く様になった。ねずみの事を知り尽くした有田が、殺人事件現場に有ったねずみの死骸から、殺人事件を解決する。


「鈴蘭の死臭」★★

小川明のネクタイで、島枝が首を絞めて殺された。発見した妹の雅枝は、驚愕の余り瞬間的に部屋から逃げ出した。その出会い頭に雅枝の婚約者である山田と会う。島枝と交際してた小川は暴力団の組員である。小川は賭場で警察に検挙され、拘置所に入れられた。だが親分が保釈金を積んでくれ、保釈され、島枝のアパートで暮らしていた。山田は小川の舎弟分である。

姉妹揃って、暴力団員と交際しているのだから頂けない。島枝と小川は、昨日、些細な事が元で大喧嘩していた。手当たり次第に物を投げ、室内は足の踏み場もないほど荒れた。その喧嘩の仲裁に入ったのが山田だった。その事実を知った捜査官は、行方を晦ましている小川が、喧嘩を根に持って島枝を殺したものと推測した。そんな時に小川がひょっこり帰ってきた。そして殺していない、逃げたのではなく喧嘩をして気まずくなったので、成人映画を見て、一晩過ごしたという。

初めに現場へ来た雅枝は、捜査官に部屋からスズランの香水の匂いがした。だが雅枝は、臭盲らしい。それと対照的に、捜査を担当した大西刑事は臭いに敏感だった。それを知らず、小川に罪を被せるため、スズランの香水を部屋に投げ付けた男が犯人だ。


「集合凶音」★★

マンションや団地等の集合住宅では、近隣世帯の騒音は、常に問題になる。十二才の北村英次も、それが堪らなく嫌であった。また英次の母親も血圧が高く、頭痛や肩凝りが激しいため、騒音が最大の敵であった。そのため近隣で傍若無人に、騒音を発生させている家へ行っては抗議した。聞き入れてもらえない場合は、区の公害課へ訴えた。しかし一つの大きな騒音を遮断してみると、次の騒音が聞こえてくる。次々と騒音の遮断を続けていくと、今まで、聞こえなかった音までが、騒音として聞こえてくる。そういった悪循環に陥った。自分の心臓の音すら騒音に思える。そんな状況の中で二つの事件が起こる。ピアノの音は美しいが、未熟であった場合は、騒音に成り得る。ピアノ教師の部屋に落ちていたヒマワリの種が、二つの殺人事件を解決するのだった。


「密閉島」★★★★

日本有数の温泉都市から十キロの海上に浮かぶ離島沖島へ須藤は渡った。島全体がレジャーランドになっている。そのホテルに宿泊している、中田島枝に会うためである。それは自分の無実を証言してもらうためだ。

証券会社の外務員である首藤に、島枝は株の売買を委託していた。巨額の売買益を出すようになると、島枝と須藤は、男と女の関係になっていった。ある日、須藤の別の婦人客が、何者かに殺された。その婦人客の口座は、須藤の取引の失敗で大きな穴が開いていた。婦人客は須藤に激しく叱責して、それを聞いた捜査官は、責められた須藤が犯行に及んだと考えて事情を聞いた。だが須藤にはアリバイがあった。その婦人客が殺された日時に、あるモーテルに島枝と一緒にいた。だがパトロンに浮気が発覚するのを恐れ、その事実を警察に証明しなかった。だから改めて島枝を説得するのに、この島へ来た。それも警察の取り調べの隙間を狙って脱走した。人目に付かぬよう、客たちが寝静まった頃を見計らって島枝の部屋へ行くと、鍵が掛かってなく呼んでも出てこないから部屋へ入った。すると島枝が首を絞められ殺されていた。殺されたばかりの様子であった。今発見されれば、この殺人も須藤の犯行とされる。やってもいない二つの殺人の犯人とされてしまう。早く逃げなければ!

しかし明朝九時まで、島から脱出する船は出港しない。狭い島なので直ぐに見つかってしまう。

その時に思いもよらない美人パートナーが表れるのだった。ここから後半は一気に味方登場の展開。

真犯人もこの島にいて、脱出は出来ない事を彼女はいった。

「島の目ぼしい建物は、このホテルだけだわ。明日、船が出るまでに、真犯人を捜せば良いわ。」

頼りがある女性キャラクターは、頭が切れるので翌朝まで、主人持ちをぐいぐい引っ張ってゆく。しかしそれが危ういことになる。


「崩落した不倫」★★★

大神洋一郎と佐田(旧姓)昌子は、何故、もっと早く止めなかったか悔やんでも、悔み切れなかった。洋一郎は貧しい地方公務員の長男だったが、大神家へ婿養子に入ると才能を咲かせた。大神家に現金は殆ど無かったが、土地や山林の不動産がかなり有った。洋一郎がモータリゼーション時代の到来を見越して、宿泊設備を伴ったドライブインやレストランを開店すると大繁盛する。大神家先祖伝来の土地や山林も、高速道路の開通などや都市化のラッシュで高騰して莫大な評価益を得る。手に入れるべき地位や名誉や資産は、全て手に入れた。だが一つ手に入れ忘れたものがあった。資産が目当てだったので、妻を好きでもないのに結婚した。

大学サークル歴史研究会で一緒だった佐田昌子、当時は歴研のプリマドンナと呼ばれて全男子学生の憧れの的だった。洋一郎にとって手の届かぬ存在だったが今は違う。歴研の同窓会を企画して再会する二人は、アッと言う間に不倫の仲になった。もう二年も続いていて、止めなければと思っていた。満ち足りた時は、欲望が醒めるが、飢餓に陥ると欲望が膨張してしまう。

その日も空腹を満たした二人は、タクシーに乗って帰路についた。そして昌子が降りようと、タクシーの扉が開いた時に一人の男の膝小僧に直撃した。二人は降りて男の様子を見に行った。大したことは無さそうだった。だが当たった男が凶悪で右頬に刃傷があるヤクザだった。扉を開けたのは運転手だが、タクシーは既に走り去ってしまった。男は矢沢富市という裏社会で〈きずとみ〉と通る札付きの悪で嗅覚も優れていた。すぐに二人の関係が表沙汰に出来ない関係だと気付かれて、脅迫の日々が始まった。金から始まり、回を重ねる度に、その金額が増える。そんな工面が難しくなると、昌子の体を求めた。堪りかねた二人に暗黙の了解が成り立った。不倫の仲だけなら、まだ良かった。殺人実行の共犯者になってしまうのだった。しかしそれが、間違いの始まりだった。

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「空洞の怨恨」★★★★★

大塚新吉が刑事になった動機は、至極、単純である。それは小学生の頃、すごく大切にしていた、ドン公を殺した犯人を捕まえるためだった。そして犯人は分かっている。ドン公は大塚が飼っていた草亀だった。弟のような存在で、何時間遊んでも飽きなかった。巣箱を作り、毎日美味しい餌を与え大切に可愛がっていた。ところが、或る日にドン公のところへ行くが、いつもなら嬉しそうに頭や手足を出すのに反応がない。持ち上げてみると軽く、よく見ると甲羅の中がくり抜かれていた。ドン公の甲羅の中が空洞で、その時の悲しみ怒りは忘れることは出来ない。犯人は分かっていた、小笠原辰馬である。三十年後に恨みを晴らす時が来た。小笠原は小学生の同級生の海野から、恋人も奪い才能も奪っていた。海野の才能で、職業作家の名声を築いていた。

ひら刑事が文壇巨匠と対決する。甲羅をくり抜かれた恨みを晴らせるのか。そしてドン公がくり抜かれた真実は大逆転となる。

〈19754月講談社刊行〉


中編小説が面白かったので、短編小説集をKindle Unlimitedで何冊も読んだけど、犯罪の加害者と被害者のキャラクターや心情には共感できなかった。やはり長編小説のほうが、森村誠一さんの良さが発揮されてあるように思いました。

松本清張さんと江戸川乱歩さんの両面を持った作家とも言われてるようですが、この二人は短編小説も満遍なく達者でしたね。

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