『背徳の詩集』森村誠一
重役秘書をしている恋人・絵梨子のコネで、大企業「マツブ」に入社が決まりかけていた渡瀬克己は、もう一人の恋人・康子に「妊娠したから、結婚して欲しい」と迫られ困惑していた。
そんなある日、康子がマンション六階から墜落した。幸い軽い打撲ですんだが、記憶を失っていた。やがて事件は、思いがけない展開をみせていく。
貧しい青春時代を支えた愛人と、4年前に旅先で埋めた愛の記念のカプセルが、順風満帆の男の人生を奈落の底へ。エリート街道をまっしぐらに駈け昇る男と、男との結婚を夢みた女たちの行き着く果てを描く。
様々な要素が多く、登場人物、殺人事件など大企業の人間関係と主人公の女性関係、その相手となる女性の男性関係などが、次々と怒涛のように襲いかかってくる。ピカレスク・ロマンの醍醐味横溢する傑作。
「森村誠一の背徳の詩集・愛人、重役秘書、社長令嬢・・・・野望の男の華麗な綱渡り」
ハンサムな容姿を武器に野望のために次々に女性を踏み台にする男と、彼を愛する女性たちの心理を描き出す。●1992年6月6日NTV放送
原作: 森村誠一『背徳の詩集』
脚本: 石原武龍
音楽: 大島ミチル
監督: 池広一夫
制作: にっかつ撮影所
出演: 村上弘明、かたせ梨乃、藤田敏八、吉川十和子、中島ゆたか、平泉成ほか
【あらすじ】
渡瀬克己(村上弘明)は野心の高い男。端正な外見から女を利用してのし上がろうと考えている。
父は母を部下に寝取られて、大学に進学した年に死んでしまった。絶対につまらない人生は送らない、と頂点へ上り詰めるしか頭にない。
これまで経済的な援助を受けてきた経営者の愛人・江上康子(中島ゆたか)から、ドライブ先で妊娠を告げられた。割り切った関係だったはずの康子は、結婚を迫ってきたのだった。
その頃にもう一人の愛人・マツブ商事の専務秘書・北里絵梨子(かたせ梨乃)の口利きで、専務の平沢(渥美国泰)を通しマツブ商事に入社していた。
一流会社トップにのし上がる野望がある渡瀬にとって、会社にまで踏み込んでくる康子は邪魔な存在でしかなかった。「誰かに狙われている」という意味深なことを、何度か話すのであった。殺されるような嫌な夢をみるともいうのだ。
そんな康子がビルの屋上から転落して、近くまで走行してた絵梨子の車の上に落ちた。康子は流産して、記憶まで失っていたが一命はとりとめ退院した。
恋塚刑事(平泉成)は、康子の妊娠相手を割り出そうとする。絵梨子は車の中にブレスレットが落ちているのを発見するが、記憶が戻らない康子は心当たりがない。
そのブレスレットは渡瀬に妊娠を告げた日に、康子が渡瀬のライターと自分のブローチである。日付と二人の名前を書いたタイムカプセルを土に埋めようとしたときに、偶然見つけて拾い上げたものである。彼女の記憶が戻れば渡瀬は疑われると思い、康子のマンションへ忍び込むがすでに殺されていた。それを危惧していた恋塚は、地団駄を踏んだ。
絵梨子と付き合いながらも、渡瀬は慕ってくるマツブ商事社長・松川孝輔(藤田敏八)の娘・冬美(吉川十和子)と肉体関係を持ってしまう。
良い気なもんだ、新たな女性の登場で攪拌されていく予感であった。
それを知った絵梨子は、渡瀬と一緒に行く予定だった修善寺にある友人の旅館を一人で訪れた。
友人と散歩の途中で絵梨子は、康子が埋めたタイムカプセルを偶然見つけて持ち帰る。康子のお腹の中の子の父親が渡瀬であるのに気がついた絵梨子は確かめるために渡瀬に会う。
平沢専務の秘書・絵梨子のサポートもあり入社した渡瀬は、自分の出世のために平沢と対立する松川社長派に寝返えりを考える。
絵梨子はタイムカプセルを見せて、渡瀬の出方を伺おうとする。そこには二人を尾行していた恋塚らがいて、二人の会話から康子と渡瀬が繋がっていたのを知ってしまう。
そんな時、冬美が妊娠してしまい彼女の強い希望で結婚することになった。
はじめは渡瀬との交際を反対していた松川だが、既成事実が出来てしまい渋々それを了承すると取締役にする。渡瀬は絵梨子に冬美は出世の道具だといい、愛しているのは絵梨子だけだという。
ところが松川の妻が渡瀬と絵梨子の関係を知って、冬美が手切れ金を渡しに来た。屈辱的な絵梨子は警察にタイムカプセルを見せると、車に落ちていたブレスレットも預けた。
恋塚はそれを持って渡瀬に会いに行き、タイムカプセルの中にあったライターが渡瀬のもので、康子を妊娠させたのを認めたが、殺人は否定した。
恋塚からブレスレットを見せられ、渡瀬はタイムカプセルを埋めたとき康子が見つけたと伝えた。
康子の両親は宝石商をしていて、26年前に強盗が入って殺されていた。ブレスレットはその時に盗まれたものの一つだった。恋塚は絵梨子にどこでタイムカプセルを見つけたか案内してほしいと依頼する。
修善寺の仁科峠で土を掘り起こしてみると康子と同じマンションに住む、行方不明の宝石商・大屋和成(石山雄大)の死体を発見した。
大屋の部屋を捜索するとマツブ商事の”山名”という人物を強請っていた形跡が見られた。渡瀬は大屋と山名という名に心当たりがない。
恋塚ははじめは、康子殺しが出世の邪魔になった渡瀬の犯行と見たが、26年前の宝石商殺しとつながったことで疑問がわいてきた。
渡瀬と冬美の結婚式が行われた。松川社長の娘婿となった渡瀬は将来が約束された。だが式場にひとり残った松川を、康子と大屋殺しの容疑で恋塚が署へ連行する。
松川社長の旧姓は山名だった。松川は大屋と二人で26年前に江上宝石店を襲い江上夫婦を殺害し、宝石を盗んで逃げたのだ。
マツブ商事の社長となった松川の消息を知った大屋は、株の暴落などで金に困って強請ってきた。その時に江上夫婦の娘が自分と同じマンションに住んでいることを話した。
その娘・康子は松川の自宅に家に家具を入れている江上康子だった。
松川は修善寺で大屋を殺して埋めたが、大屋が江上宝石店から盗んでいた特徴のあるブレスレットが現場に落ちていた。
ある日、松川の自宅に家具を納品した康子が以前どこかで会ってないかと尋ねた。もしかしたら大屋が自分のことを話したのではないかと怯えた松川は、康子を襲い転落させたのち、命を取り留めた康子を絞殺した。
その頃、何も知らない渡瀬は冬美とオーストラリアへ新婚旅行に来ていた。
そこで松川が大屋と康子殺害の犯人であることを日本からの電話で知らされる。松川社長は失脚して、帰国した渡瀬は平沢から沖縄への左遷を宣言される。あともう一歩のところで渡瀬は振り出しに戻ってしまった。
そんな渡瀬のところへ絵梨子がやって来て、自分はマツブ商事の松川会長の妾の子供であると話した。
絵梨子、冬美と関係を持った渡瀬だったが、どちらと結婚しても将来は約束されていたのだ。
だが渡瀬はこんなことで夢を諦める男ではなかった。絵梨子と別れてひとりになって、まだこれからと力強く歩き始めるのであった。
« 「結局は噛み砕く力」 | トップページ | Coitus reservatus(コイタス・レゼルヴァトゥス) »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント