『トオマス・マン短篇集』(岩波文庫)
人間的な苦悩を芸術的情熱の火で浄めてゆくシラーの姿を浮き彫りにした「悩みのひととき」.精神的には優れたものを持ちながら,どこか生活機能が充分でないため,実生活の上ではみじめなばかおどりをしているにすぎぬ「道化者」.その他清新な創造意欲の息吹きにみちたマンの初期短篇から十七篇を集めた.
トオマス・マン(Thomas Mann)は,19875年6月6日,ドイツ西南隅のハンザ同盟都市リュウベックで,同市の有力な素封家を父として生まれ,1955年8月12日,スイスのキルヘンベルグという小村で,80年の生涯を閉じた.
……23歳のとき,すでに最初の短編小説『小フリイデマン氏』によって,すぐれた芸術的才腕をひろくみとめられて,作家生活にはいったが,さらに26歳で,はじめての長編小説『ブッデンブロオク家の人々』を発表して,それまでの重苦しい自然主義文学に見られなかったような,清新な創造意欲と,丹念な,ねばりづよい技巧で,ドイツ文壇に新風を吹きおくると同時に,その一角に独自の地歩をしめてしまった.
そののちも,人間の本質にやどる,宿命的な二元性の実相を,情熱的に追及しながら,その情熱を,まれに見る自己鍛錬によって,いくつもの作品のなかに,みごとに結晶させて行った.そしてどの作品も,きびし,冷静な客観描写の奥に,かならず澄みきった理性と,深い理解からわく愛情と,かるいユウモアであたためられた皮肉とが,おのずからうかがわれるのである.
(「あとがき」より)
【目次】
幻滅
墓地へゆく道
道化者
トリスタン
小フリイデマン氏
幸福への意志
トビアス・ミンデルニッケル
ルイスヒェン
飢えた人々
衣裳戸棚
神の剣
ある幸福
予言者の家で
悩みのひととき
なぐり合い
神童
鉄道事故
あとがき
初期トオマス・マンの作品群について
トーマス・マン 1875年ドイツのリューベックに生まれる。1894年“Gefallen”でデビユー。1929年ノーベル文学賞を受賞。ナチスの台頭によりアメリカに亡命し戦後はスイスに移住。ヒューマニズムの立場で民主主義を支持。作品に「ヴェニスに死す」「魔の山」などがある。1955年没。
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