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2024年5月30日 (木)

『ガラスの街角』ポール・オイスター(新潮文庫)

「そもそものはじまりは間違い電話だった」。深夜の電話をきっかけに主人公は私立探偵になり、ニューヨークの街の迷路へ入りこんでゆく。探偵小説を思わせる構成と透明感あふれる音楽的な文章、そして意表をつく鮮やかな物語展開──。

この作品で一躍脚光を浴びた現代アメリカ文学の旗手の記念すべき小説第一作。オースター翻訳の第一人者・柴田元幸氏が自分の刊行された文芸誌に、特集された号に全訳されたものです。


〈散歩に行くたび、あたかも自分自身を置いていくような気分になった。街路の動きに身を委ね、自分を一個の眼に還元することで、考えることの義務から解放された。それがある種の平安をもたらし、好ましい空虚を内面に作り上げた。(中略)あてもなくさまようことによって、すべての場所は等価になり自分が、どこにいるかはもはや問題ではなかった。散歩がうまくいったときは、自分がどこにもいないと感じることができた。そして結局のところ、彼が物事から望んだのはそれだけだった―どこにもいないこと。ニューヨークは、彼が自分の周りに築き上げたどこでもない場所であり、自分がもう二度とそこを去る気がないことを彼は実感した。〉


夜間にクイン氏へ間違い電話がかかってくる。

「ポール・オースターさんですか?」クインはポール・オースターという男を名乗り、その電話の依頼である事件の探偵として関わる。依頼者はピーター・スティルマンで、本名は「ピーター・ラビット。冬はミスター・ホワイト、夏はミスター・グリーン」と言う。

名前など意味がなくて、翻訳不可能な言葉を語る。父親のピーター・ステイルマンに小さい頃からずっと監禁され、自由と言葉を奪われた。

その回復過程にある現在において、刑務所から出てきた父ピーター・スティルマンが殺しにやってくるから守ってくれという依頼。


クインはポール・オースターになって、自分の分身のウィリアム・ウィルソンが書いた探偵小説の探偵のように、ピーター・ステイルマンを尾行する。街をブラブラして、落ちている無用なものを回収するスティルマン。ピーター・ステイルマンは新たな言葉を作り出そうとしていた。

バベルの塔の建設で人間が犯した言葉の過ちを正そうと、新バベルの建設を考えている。息子の監禁も言葉を奪うことで何かを実験していたかのようである。

クイン氏は何日もピーター・スティルマンの不可解な散歩を尾行し続けたが、ある時に見失ってしまう。

そして自分がなぜポール・オースターと間違えられたのかを知るために、作家のポール・オースター氏に会いに行く。そこで「ドン・キホーテ」とセルバンデスの関係について語られる。「ドン・キホーテ」物語のすべては、ドン・キホーテの仕掛けた罠であり、嘘やナンセンスをどこまで信じるかの実験だった「ドン・キホーテ」論を書いていた。

実験や仕掛けた罠とすると、この奇妙な依頼もまた誰かが仕掛けた罠なのだろうか。


ピーター・スティルマン氏の息子の言葉を奪う実験。そして言葉を作り出そうとする新バベルの塔の建設とは、作家のようでもある。街をさまよい、見続ける。そして言葉にする。

クイン氏はウィリアム・ウィルソンという名の作家であり、作家ポール・オースターという名の探偵となり、尾行をする。名前は次々と変わり、自分とは何者でもなく、何者にもなれる。


ピーター・スティルマンを見失ったクインは、浮浪者のようになりながら何日も息子のピーター・スティルマンの建物を見張り続けるのだが、そのピーター・スティルマンもいなくなってしまう。父親ピーター・スティルマンは自殺した知らせをポール・オースターから聞き、すべて謎のまま投げ出される。クインは赤いノートにこれまでのことを書き続けて、いなくなってしまう。

街を歩き、さまようことで、自分が一個の眼となり、空虚なものとなる。それは街そのものであり、どこにもいないことである。赤いノートに記され言葉だけがあり、小説がある。

最後にアフリカから帰ってくるというポール・オースターの友人「私」がクインの赤いノートから、この小説「ガラスの街」を書いたとされるのだが、そもそもその「私」とは誰なのか。

ポール・オースターなのか、クインなのか、ウィリアム・ウィルソンなのか、それとも別の誰かなのかわからない。作家とは誰でもない誰かであり、虚ろな存在でしかない。

そして私たちもまた、誰でもない誰かになりうるし、虚ろな存在であるということでもある。

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『シティ・オヴ・グラス』として角川文庫からも翻訳されている。

舞台はニューヨーク。ペンネームの下にミステリー作品を書いて生計を立てているクィン。ある夜から続けてかかってきた間違い電話にきまぐれで耳を傾けると、声の主は探偵ポール・オースターを探しているという。現代アメリカ文学を牽引するオースターの記念すべきデビュー作。この小説が処女作ならば、天才的なものを感じてしまう内容。

https://www.shinchosha.co.jp/book/245115/

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