「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」
北斎のグレートウェーブが新紙幣に!
すみだ北斎美術館で特別展「北斎 グレートウェーブ・インパクト ―神奈川沖浪裏の誕生と軌跡―」
浮世絵師、葛飾北斎の代表作といえば、「冨嶽三十六景」の「神奈川沖浪裏」である。
大きな波に翻弄される小舟、自然の雄大さを印象付ける構図。海外でも「グレートウェーブ」として有名な「ナミウラ」だが、北斎とその一門の作品を専門に収集しているすみだ北斎美術館。
今回の特別展は、その新紙幣発行を記念して、「グレートウェーブ」はどうやって生まれたか、後世にどのような影響を与えたかを紹介する。
「第一章」と「第二章」は、北斎の歩みを振り返り、江戸時代の海外交流事情を説明しながら、「グレートウェーブ」誕生の背景を紹介する。
浮世絵の世界では18世紀半ば頃から、西洋の遠近法を取り入れた「浮絵」が多数制作されていた。北斎の「波」に影響を与えたとされる南蘋派の始祖は中国人画家の沈南蘋。
北斎は西洋画のパイオニア・司馬江漢から直接画法を学んだという話もあり江漢の作品も会場には展示されている。
「グレートウェーブ」の画題は、ある日突然生まれたものではなかった。北斎は若い頃から水辺を描くのが好きで、様々な「波」が現代に残されている。展覧会では数多くの水辺、波の絵が展示されている。
勝川派を離脱した後、北斎はいったん私家版の浮世絵である「摺物」などを主な活躍の場とし、『南総里見八犬伝』で有名な曲亭馬琴の読本の挿絵でヒットさせる。馬琴・北斎コンビの代表作が、『椿説弓張月』で、鎮西八郎・源為朝の活躍を描いたこの小説は、伊豆に流された為朝が大島を抜け出し挙兵するが、暴風雨に遭い琉球に漂着。そこで琉球王国再興の祖となるというものだが、そういう内容だけに「海」や「波」を描いたシーンが多く、迫力のあるシーンが展開されている。北斎は現代でいえばイラスト集的な「絵本」も数多く手掛けて、版本で技巧を熟成させた後に北斎は、錦絵で「冨嶽三十六景」「諸国瀧廻り」などの次々と発表する。
第三章は「その影響」が特集される。「神奈川沖浪裏」に代表される「北斎の波」は、数多くのフォロワーを生んだ。「来る者拒まず、去る者追わず」の北斎には、200人もの弟子や孫弟子がいたといわれるが、「波」の技法は一門に受け継がれた。後期展示の「摂州大物浦平家怨霊顕る図」は、能や歌舞伎でおなじみ『船弁慶』の物語をモチーフにした作品。平家の怨霊と義経・弁慶との戦いの迫力を、荒れ狂う波の描写が倍加させている。
「波」の描き方を北斎に学んだのは、一門だけではない。武者絵で有名な歌川国芳は北斎の作風に傾倒していたことでも知られるが、「高祖御一代略図 佐州流刑角田波題目」をみてもその影響はよく分かる。歌川芳員、月岡芳年らの国芳一門も師匠に倣ってか北斎流の波を描いた。
アールデコのガラス器や皿なども、北斎のデザインを取り入れていった。「グレートウェーブ」の影響は海を越え、西洋にまで及んだ。
すみだ北斎美術館 特別展
[2024年6月18日(火)~8月25日(日)]が開催中。
https://hokusai-museum.jp/GreatWaveImpact/
« 「美と科学」中谷宇吉郎 | トップページ | 企画展「ゴミうんち展」が開催 »
この記事へのコメントは終了しました。
コメント