『涙壺』リルケ
『涙壺』リルケ
他の人たちは葡萄酒を摑み、他の人たちは油を摑む
これら人の囲壁を一定の範囲で囲っている、この中空になった丸天井の中で
ぼくは小さな尺度として、そして最も痩せたものとして、
ぼく自身を穿って、中空にして、窪ませて、他の欲求を満たすものとする。墜落する涙のために。
葡萄酒はより豊かとなり、そして油は壷の中でより清澄になる。
涙には何が起きているのか?—涙は、ぼくを重たくした、
ぼくを盲目にした、そしてぼくの足の関節を玉虫色に光らせ、ぼくを遂には破れやすい脆いものにして、ぼくを空にした。
〔『リルケ詩集』より〕
リルケ Rilke,Rainer Maria
(1875-1926)プラハ生れ。オーストリアの軍人だった父によって入学させられた陸軍士官学校の空気に耐えきれず約一年で退学。リンツの商業学校に学びながら詩作を始める。二度のロシア旅行の体験を通じて文筆生活を決意し、詩の他、小説・戯曲を多数発表。後にパリに移り住み、一時ロダンの秘書も務めて大きな影響を受けた。また生涯を通じて数多くの書簡を残している。代表作に『マルテの手記』『若き詩人への手紙』など。
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