リルケ『海原と薔薇』
「海の歌」
大海の太古からの息吹き
夜の海風よ
お前は誰に向って吹いてるでもない
このような夜ふけに目覚めている者は
どんなにしてもお前に
堪えていなければならない
大海の太古からの息吹き
それはただ古い巌のために
吹いていると思われる
はるか遠くからただ広がりだけを
吹きつけながら
崖のうえで 月光を浴びて
ゆれ動く一本の無花果の樹が
お前を感じている
「薔薇の内部」
何処にこの内部へと対する外部があるのだろう?
どんな痛みのうえに
このように麻布があてられるのか?
この憂いなく
開いた薔薇の内湖に映ってるのは
どの空なのだろう?
見よ どんなに薔薇が咲きこぼれて
ほぐれているかを 震える手さえも
それを散り溢すのができない
薔薇にはほとんど自分が支えきれない
その多くの花は 満ち溢れ
内部の世界から
外部へとあふれでている
そして外部はますます満ち満ちて 圏を閉じ
夏全体が 一つの部屋に
夢のなかの一つの部屋になる
リルケ Rilke,Rainer Maria
(1875-1926)プラハ生れ。オーストリアの軍人だった父によって入学させられた陸軍士官学校の空気に耐えきれず約一年で退学。リンツの商業学校に学びながら詩作を始める。二度のロシア旅行の体験を通じて文筆生活を決意し、詩の他、小説・戯曲を多数発表。後にパリに移り住み、一時ロダンの秘書も務めて大きな影響を受けた。また生涯を通じて数多くの書簡を残している。代表作に『マルテの手記』『若き詩人への手紙』
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