『アクロイド殺し』アガサ・クリスティ
クリスティ作品の中でも代表作とされる名作。
村の名士アクロイド氏が短刀で刺殺されるという事件がもちあがった。その前に、さる婦人が睡眠薬を飲みすぎて死んでいる。シェパード医師はこうした状況を正確な手記にまとめ、犯人は誰か、という謎を解決しようとする。60余編のクリスティ女史の作品の中でも代表作とされる名作中の名作。独創的なトリックは古今随一。
ポアロの隣人により書かれた手記の形をとるが、その隣人自身が犯人であったので「語り手が犯人である」という叙述トリックが読者に対してフェアかどうかの論争となった。
【あらすじ】
キングズ・アボット村のフェラーズ夫人が亡くなった。夫人は未亡人だが大変裕福で、村のもう一人の富豪ロジャー・アクロイドとの再婚も噂されていた。
検死をおこなったジェイムズ・シェパード医師は睡眠薬の過剰摂取と判断したが、噂好きな姉キャロラインはあれこれ聞き出して、夫人の死は自殺だと主張する。
外出した医師は、行き会ったロジャーから、相談したいと言って夕食に誘われた。
夕方、屋敷を訪ねて悩みを打ち明けられた。再婚を考えていたフェラーズ夫人から、「一年前に夫を毒殺した」と告白されたという。夫人はそのことで何者かから恐喝を受け続けていたらしい。
そこにフェラーズ夫人からの手紙が届き、ロジャーが読み始めた。それは恐喝者の名前を告げる手紙だった。ロジャーは後で一人で読むと言って医師に帰宅を促す。その夜ロジャーは刺殺されて、フェラーズ夫人の手紙は消えた。
ロジャーの遺産を受け継ぐラルフが行方不明となって、警察は彼を有力な容疑者とする。姪フローラは探偵を引退して、村に引っ越してきていたエルキュール・ポアロに助けを求めた。医師は隣家の奇妙な外国人が探偵であると知る。ポアロは依頼を引き受けて医師を助手役に捜査を開始する。
ラルフの他に、事件当日、村で目撃された不審な男がいるのが分かり、容疑者となる。
ポアロに事件についての書きかけの手記を読ませると、その手記に感心する。執事のジョン・パーカーは以前の主人を恐喝した前科のある男だったが、殺人には否定する。事件当日に目撃された不審な男は、家政婦のエリザベス・ラッセルの息子だった。その息子が屋敷を訪れた時間は、ロジャーの死亡推定時刻とは食い違っている。フローラは、事件当日おじのロジャーの部屋から現金を盗み、それを隠すためにうそをついていたと告白する。そのためにロジャーの死亡推定時刻が当初思われていたよりも早まる。
ポアロは関係者を一堂に集める。
医師がラルフを精神病院に匿っていたのを皆に告げ、「シェパード医師の記録には書いていないこともある」と指摘する。ラルフは小間使いのアーシュラと密かに結婚していた。それを知って激怒したロジャーが殺されたため、疑われるのを恐れたラルフは、医師の勧めで身を隠していたのだ。ポアロは「明日になれば真相を警察に話します」と宣言する。
その後、ポアロは医師と二人きりになり、真相を話す。ロジャーは亡くなった日に、録音機に声を録音していた。犯人がその声を再生したため、その声を聞いてロジャーが生きて話していると思ったパーカーの証言から死亡推定時刻が遅れたのだ。「ロジャーの死亡推定時刻にそばにいて、録音機を持ち運びできる鞄を持っていた人物が犯人で、それはシェパード医師である」とポアロは話す。
ポアロはフェラーズ夫人への恐喝の露見を恐れてロジャーを殺した医師の動機を説明して、「あなたのお姉さんのためにも真相を隠しておきたいが、逃げ道が一つだけある」と言う。家に帰った医師は、「これから睡眠薬を飲むことにする」と書いて手記を終えたのだった。
[アガサ・クリスティ]1890年、保養地として有名なイギリスのデヴォン州トーキーに生まれる。中産階級の家庭に育つが、のちに一家の経済状況は悪化してしまい、やがてお金のかからない読書に熱中するようになる。特にコナン・ドイルのシャーロック・ホームズものを読んでミステリに夢中になる。
1914年に24歳でイギリス航空隊のアーチボルド・クリスティーと結婚し、1920年には長篇『スタイルズ荘の怪事件』で作家デビュー。1926年には謎の失踪を遂げる。様々な憶測が飛び交うが、10日後に発見された。1928年にアーチボルドと離婚し、1930年に考古学者のマックス・マローワンに出会い、嵐のようなロマンスののち結婚した。
1976年に亡くなるまで、長篇、短篇、戯曲など、その作品群は100以上にのぼる。現在も全世界の読者に愛読されており、その功績をたたえて大英帝国勲章が授与されている。

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