『幽霊列車』「ところにより、雨」赤川次郎
赤川次郎のデビュー作となる『幽霊列車シリーズ』。
永井夕子と宇野警部のコンビによる謎解きの〈最初の一歩〉である「幽霊列車」は、1976年に第十五回オール讀物推理小説新人賞を受賞した作品。
「凍りついた太陽」が1977年10月号に、「ところにより、雨」が78年2月号に、「善人村の村祭」が年5月号へと発表されて一冊に刊行となった。
警視庁捜査一課の警部で40歳こえる宇野喬一と、女子大生の名探偵で永井夕子による連作短編。内容も富んだ謎解きで、なかでも「ところにより、雨」は本格推理小説として、真っ向からミステリーに取り組んでいた。
「幽霊列車」
山間の岩湯谷温泉へ走る列車、乗客全員が忽然と消えてしまった。温泉宿を利用していた8人の湯治客が、帰りの列車から失踪する。
確かに朝一番の列車に乗ったのだが、次の駅に着いてみると荷物は残して全員姿が消えていたのだ。
上司から休暇と仕事と半々で派遣された宇野は、列車事件を調べているうちに、興味本位で現場にやってきた夕子と知り合う。
滞在している旅館ゆけむり荘の女中・植村美和が殺されて、証言者がみな立派過ぎるたりして、夕子は真相へ推理。
旅館なのにトンカツやエビフライと社員食堂みたいな食事を並べられながら、温泉宿らしからぬことも疑問視する。りっぱ過ぎる目撃者たちも、気になる様子である、
最後の夜に生死を共にした二人は、探偵コンビの縁がはじまるのだった。
「裏切られた誘拐」
実業家である新田の娘、雅子が誘拐される。
原田刑事と新田邸を訪れた宇野は、雅子の家庭教師として出入りしている、夕子と再会して事件へ乗りだす。
近所に住む西尾にも話を聞き、夕子が犯人に身代金を渡しに行くと、銃弾に撃たれて西尾と雅子は死亡していた。西尾が犯人と思われたが、夕子は不審な脅迫状から、隠された真相を推理する。
「凍りついた太陽」
伊豆のリゾートホテルで真夏の休暇を楽しむ2人。そこで知り合った竹中綾子は、子ども3人を連れて滞在していた。
そんな周囲に不審なサングラスにアロハシャツ姿の男がうろついてる。
そこで偶然にも元凄腕スリ辰見に再会する。蛇の道同士でユスリの矛先が、綾子夫人にあると知る。ちびっ子三人のためにも、阻止しなければならない。
リゾートホテルでそのアロハ男に接近するが、自室のバルコニーで死んでいたのだった。そして鑑識の結果では、なんと凍死と判定されたる。真夏のリゾート地で凍死したのだ。夕子の推理はレストランでの冷凍食品の会話から、真相究明へ近づいていく。
「ところにより、雨」
夕子の学園祭で講演をすることになった宇野だが、紹介された助教授の川島との挨拶あり、準備を進めて学内で不審死が発見される。
雨の天候でもないのに、地下の書庫でレインコートと長靴と傘姿で死んでいる川島の助手、青木を見て疑問を持つ。
翌日に同じく助手の中野が、住宅街の雑木林の中で雨降りの格好をして殺されているのが発見されて、更にその夜には会社経営をしている川島の母親も、雨装束で殺されていた。
これは連続殺人ではなく不連続殺人ではないかと、疑った夕子は推理を展開させていく。
「善人村の村祭」
正月休みを温泉で過ごそうと、秩父まで来た宇野と夕子だが、途中で線路が土砂崩れに遭い、手前の駅へ引き返す。
そこで会った植村刑事の里帰りに同道させて貰い、彼の故郷である善人村へ向かう。
笑顔の歓待に迎えられ、至れり尽くせりのもてなしを受ける。艶やかな村長の妻・絢路の夜這いすら受けて宇野は困惑する。
善人ばかりの村だが、電車の中でも視線を感じた青年・山上の兄の転落死や、その山上自身の死が不穏な影を落とす。
新年祭の時は迫り、一件落着した後、温泉宿の一室で、夕子は宇野に探偵社を開業しないかと提案するのだった。
全5編、最後の1編以外はトリックで読ませる本格的なもの。ベストセラー作家となった赤川次郎とは違うテイストで、垣間見れる初期作品である。ミステリとは非日常なのだから、このように日常を離れた場所で軽妙に展開するのも相応しいだろう。
赤川次郎 一九四八年二月二十九日、福岡県生まれ。桐朋高等学校卒業。七六年、「幽霊列車」で第十五回オール讀物推理小説新人賞を受賞、以来ベストセラー作家として活躍。「幽霊」シリーズの他に、「三毛猫ホームズ」、「三姉妹探偵団」など、数々の人気シリーズがあり、著作は六百冊を超える。二〇〇五年に第九回日本ミステリー文学大賞、一六年に『東京零年』で第五十回吉川英治文学賞を受賞。
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