『贖罪の奏鳴曲』中山七里
御子柴礼司シリーズ」第1作。著者初のリーガル・サスペンス作品。2012年2月18日放送の『王様のブランチ』でも紹介されて、大森望も推奨した。
2012年3月号の『ダ・ヴィンチ』の今月のプラチナ本にも選ばれる。
著者の他の作品にもたびたび登場する古手川と渡瀬のコンビが今作でも登場し、主人公である御子柴礼司に迫る。出版元は違うものの『連続殺人鬼カエル男』と同じく古手川が埼玉県警に配属になって1年が過ぎたころの話だが、時系列的にはこちらの方が後になり、人物や出来事が多数リンクしている。
著者は「主人公が変化していく物語と謎が解決していく物語を一緒に描きたい」と執筆をした。
結果どんでん返しを含んだミステリーというだけではなく、少年法の是非や、障害者を持つ家族の実態、贖罪の意味など様々な問題を投げかける作品となる。
“贖罪の奏鳴曲”とは御子柴自身のソナタを表して、ベートーベン「ピアノソナタ第23番ヘ短調〈熱情〉」を聴くことで改めて自分の罪と向き合うなど、音楽にも重要な役割がある。
ある懲役囚から自身の本の感想を聞いた時、人を殺す人間というのは何かが欠落しており、それは言葉や知識ではなく感性であるということを知った。音楽で感性が目覚めるというシーンを描くことを決意。医療少年院でピアノを弾く少女と出会うシーンで実現させたが、演奏シーンが長すぎるのではないかという意見が編集者から挙がる。しかし長めにとらなければ主人公が変わっていくリアリティーが失われてしまうと思い、当初の長さのままにしてほしいとこだわって押し通したという。
【あらすじ】
上奥富運動公園を越えた先、入間川の堤防で30代前半と思われる全裸の男の死体が発見された。身体中に傷と打撲跡があり、リンチを受けたかのようたが、パートナーの古手川和也と共に現場で死体を見た埼玉県警捜査一課の渡瀬は、水死体であるのを見抜いた。また左の掌中央に不自然な小円形の赤い窪みがあるのに着目する。
捜査本部がある狭山署で記者クラブに対して会見が開かれ、参加していた埼玉日報社会部記者の尾上善二の発言から、死体の身元がフリーの記者・加賀谷竜次であるとわかる。
強請りの常習者として有名で、最近は保険金のために夫・彰一の人工呼吸器を止めて殺害したと騒がれている東條美津子の事件に関心を寄せていたらしい。
そして監察医の光崎の報告から、左の掌にあった窪みは電流紋だと判明する。それは感電死するくらいの電流が一気にそこに流れたのである。
渡瀬は古手川と共に「東條製材所」を訪れる。美津子は現在拘留中だが、一人息子の幹也がオートメーション化された製材所で変わらず仕事を続けていた。
そこで美津子の裁判を担当している弁護士の御子柴礼司と初めて顔を合わせる。御子柴の顔を見た渡瀬はすぐ、加賀谷がパソコンで頻繁に見ていた「少年犯罪ドットコム」というページの“園部信一郎”と同一人物であるのに気づく。園部は26年前の昭和60年、幼女殺害事件の犯人として当時14歳で逮捕されていた。加賀谷が強請っていたのは美津子ではなく御子柴なのではないかと、渡瀬は疑いを抱くが、加賀谷の死亡推定時刻に御子柴は東京地裁で弁護中で、アリバイは完璧だった。
しかし殺しには免疫性があるのを知っている渡瀬は、なぜ御子柴が地位も名誉もない東條美津子の国選弁護人を引き受けたのがキーポイントになるはずだと考え、御子柴の素顔を知るため、関東医療少年院収容時に彼の教育担当だった稲見武雄に当時の様子を聞きに行く。
美津子が故意にストップさせたという人工呼吸器の製造元・ガーランド医療機器会社を訪れ、御子柴は弁護のための切り札を見つけていた。そして最高裁弁論当日。傍聴席にいた渡瀬や幹也の前で、御子柴は法廷に人工呼吸器の実物を持ち込んでデモンストレーションを行い、美津子が無実だと見事に証明して、対峙していた検事の額田順次を含めた関係者達を唸らせる。しかし当の御子柴の気持ちは晴れなかった。そして裁判では明らかにしなかったもう1つの真相を幹也に告げた後、帰ろうとした地下駐車場で、以前から自分を恨んでいた安武里美に刺されてしまう。
気づいて駆け寄ってきた渡瀬ももう1つの真相に気づいていたと知って安堵しながら、御子柴の意識は遠のいていった。
単行本:講談社、2011年12月21日発売、ISBN 978-4-06-217377-3
文庫:講談社文庫、2013年11月15日発売、ISBN 978-4-06-277666-0
公式サイト
http://www.bookclub.kodansha.co.jp/
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