詩人の谷川俊太郎さんを追悼して
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
『二十億光年の孤独』より
「午の食事」 谷川俊太郎
そうして雲の多い空の下にもまたふたたびあの楽しい午の食事が廻って来る。不幸に耐えながら不安に耐えながら沢山の家庭がまたあの楽しい午の食事をしたためる。どんな場合にもそれはあわれに楽しい午の食事だ。
離婚の日の誕生の日の卒業の日のそして又死の日の午の食事だ。滅びることを知っている僕達のあわれに楽しいひとときなのだ。どこからか午の円舞曲がきこえてくる、白い洗濯物のひるがえる、それはあわれに楽しいひとときだ。
お祖父さんもお母さんも妹も、そうして失なわれた人や失なわれる時もみんな一緒に午の食事をしたためる。蝶がとぶ、爆撃機がとぶ、いかなる並木道を歩いたか。感傷におぼれず働くことのみを喜ぶ人も、病気で星雲の
ことばかり思っている人も午の食事に席を列ねる。そうして僕も又一緒に食卓につきながら思うのだ。たしかにそれは午の食事だと。あわれに楽しい午の食事だと。
(1951.4.2)
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