『ホッグ連続殺人』ウィリアム・L.デアンドリア
雪に閉ざされたニューヨーク州スパータの町は、殺人鬼HOGの凶行に震え上がった。彼は被害者を選ばない。手口も選ばない。不可能としか思えない状況でも、確実に獲物をとらえる。そして巧妙に事故や自殺に見せかけたうえで、声明文を送りつけるのだ。署名はHOG――このおそるべき連続殺人事件解決のため、天才犯罪研究家ニッコロウ・ベネデッティ教授が乗り出した!アメリカ探偵作家クラブ゛賞に輝く本格推理の傑作。(早川文庫あらすじより)
ニューヨーク州にある人口約19万人のスパータという町が舞台。
事故としか見えない死体が発見されるが、その後にHOGと署名された犯行声明文が送られる。
その第一の事件は新聞記者ビューアルが取材を終えた後、一人で車を運転してスパータに戻る途中の高速道路で起きる。
ビューアルの前を走っていた車が、陸橋に差し掛かり、陸橋の標示板が突然落下して車を直撃した。
その車には3人の女子高生が乗っており、2人が死亡して1人は重傷を負って病院に搬送される。車の後ろを走っていたビューアルは事故を目撃して、直ちに車を脇に停めて救助に当たり、警察に通報して捜査に協力した。
掲示板が落下した事故だと思われたが、鑑識が調べたところ、標示板を取り付けていた金具がボルト・カッターのような工具で切断された痕が発見される。
これは事故を装った殺人事件ではないか?
この事件の2日後に、ビューアルへHOGと署名された犯行声明文が郵送されてきた。
「あの事故は私が細工した、そして、これが最後ではない。HOG」
直ちに警察に届けるが、その犯行声明文の中には捜査関係者しか知らない事実が書かれていた。
これは警察内部に犯人がいるのではないかと考えられ、極秘に調査されるが、その後第二、第三の事件が発生するに連れて、この事件の捜査に携わっている者全員にアリバイが成立してしまう。
第二の事件は、一人暮らしの老人がそのアパートを出たところ、階段から転落して亡くなった。老人が階段で足を踏み外した事故とも思えたが、やはり犯行声明文がビューアルのもとに送りつけられ、自分が後ろから押したのだと告白している。
第三の事件は悲惨である。8歳の子供が自宅を出たところ、屋根から落下してきた鋭利な氷の塊によって頭部が切断されて亡くなった。
同様にHOG名義の犯行声明文が送りつけられてくる。
警察は従来であれば単なる事故として処理してきたような案件についても、HOGによる巧妙な殺人の疑いがあり得ることから、これまでの何倍もの死体を検死したり解剖に回さなければならなくなり、一連の捜査を指揮しているフライシャー警視も疲労困憊してしまいまう。
それでもHOGの正体は全くつかめず、また、被害者の間に共通性を見出すこともできず、HOGの動機もまったく分からない。
市民は無差別殺人の恐怖に怯えて、警察に対する風当たりも強まる。
この連続無差別殺人に、町は恐怖に包まれた。「なぜわれわれがそんなめに? 人々は神に尋ねたが、答えは得られなかった」
この犯人はだれなのか。
このHOGという名前が何を意味しているのかも判明しない。普通に考えれば豚を意味する言葉ではあるが、果たしてそういう意味なのだろうか?
あるいは何か他の意味が隠されているのか?
捜査は混迷の度合いを深めていくばかりであった。
まるで黄金時代ミステリごとく、魅力的な名探偵、素晴らしく不可解な謎と鮮やかな解決、そしてラスト一行の切れ味が決まる。
ウィリアム・L.デアンドリア
1952年、ニューヨーク州ポートチェスター生まれ。エラリイ・クイーンに心酔し、シラキューズ大学卒業後、工場やミステリ専門書店勤務を経て、1978年に『視聴率の殺人』で作家デビュー。
これがMWA賞最優秀新人賞を受賞、翌年発表の『ホッグ連続殺人』も同最優秀ペイパーバック賞受賞と、2年連続の栄誉に輝いた。その後も知的な本格ミステリを次々と世に送り出し、高い評価を受ける。
またミステリ編集者としても手腕を発揮し、1994年のEncyclopedia MysteriosaでMWA賞最優秀評論/評伝賞も獲得している。妻はミステリ作家のオレイニア・パパゾグロウ。1996年、ガンのため44歳の若さで死去。
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