『おじいさんになったね』南 伸坊 (だいわ文庫)
2015年に海竜社から刊行された同書の文庫化。
ごきげんな老人、世にはばかる! 頭はすっかりまっしろのおじいさんになったが、気分はぺーぺーの若者。南伸坊の加齢なる日々のエッセイ33編
持って生まれた著者の性格の和やかな文章だから読んでいて、ほんわかと安心感がある。
「朝、目が覚めたら部屋が廻って」いたというので、友人のフジモリさんからめまいの話を聞いていたので、最初は「ついに来たか」と思ったらしい。そこで耳鼻科に駆け込んで、検査を受ける。
「はい、あまり心配ないですね」
と、これは有難かった。それほど重度のめまいではないらしい。
「原因は何でしょうか?」
と質問してみると意外な答えが返ってきた。フジモリさんもアカセガワさん(筆者注:著者と交流のあった故・赤瀬川原平氏)も、同じ質問をしたが、よくは分からないのだということと、ストレスが原因だろうくらいの話だったはずだ。
私の先生はモロだった。
「老化です」
(本書25~26ページより)
老化で老廃物が処理しきれなく、三半規管に残留した。その老廃物が作用をしたのではないかと言われた。
「老廃物ですね、血液が悪いのでそのあたりの血流をよくするおクスリを処方します。一週間後にまた来て下さい」(本書26ページより)
「締め切りのせいではないか」
「ストレスが原因ではないか」とあれこれ考えていた著者は、それを聞いて肩透かしを食らった。
帰ってツマに報告すれば、
「ローハイブツ……か」とポツリといってから、歌い出した。
「ローレン、ローレン、ローレン。ローレン、ローレン、ローレン。ローーハーーイ ブツッ!!」私もローハイブツのテーマに唱和した。
(本書26ページより)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
いつまでも若いつもりでいたいのは、死んで自分が消えてなくなっちゃうのに、脳ミソが納得いかないからで、いずれ八十や九十近辺には死んでしまうと分かっているけれど、その分かっている自分がナシになるのに、脳ミソは納得いかない。
不治の病とかに罹っていれば、そうもいかない。早くからそのことを考えるから、正岡子規は三十代で脳ミソに納得させたらしい。
「いつ死んでもいい」
と思うことにした。
「今日じゃなくてもいいけど……」
悟るというのは「平気で死んでいくことだ」と思っていたが、毎日「平気で死のう」とばかり思っているより、いろいろあっても「平気で生きていく」のが悟るってことだと書いている。
(「文庫版のためのあとがき」より)
おじさんになっても「ローレン、ローレン、ローレン」と、いや、「老齢、老齢、老齢」と歌い笑い飛ばせばいいのだ。
老いても面白いことを求めて、ユーモラスに生きることが語られてる実用性のある文庫本です。
『おじいさんになったね』
南 伸坊 著 だいわ文庫
発行年2019年8月刊行
南伸坊 1947年生まれ、東京都出身。
月刊漫画「ガロ」の編集長を7年間務めて、個性的な漫画家たちの作品を多く世に送り出した。80年からフリーのイラストレーター、エッセイストとして多彩な活動をスタートさせる。
赤瀬川原平、嵐山光三郎、糸井重里たちと、昭和のサブカルチャーを牽引した。
おにぎり頭の柔和な顔がトレードマークでテレビ出演も多数。『NHK教養セミナー』や、80年代に糸井重里等がMCを務めた『スタジオL』にも出演して注目を集めた。
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