『夢の女・恐怖のベッド』ウィルキー・コリンズ(岩波文庫)
『白衣の女』『月長石』で名高いウィルキー・コリンズはまた,数多くの魅力的な短篇をのこしている.どの作品も,ミステリの萌芽というべき謎めいた筋立てと卓越した描写力で,コリンズのストーリーテラーぶりが遺憾なく発揮されたものばかりだ.表題作のほか「盗まれた手紙」「グレンウィズ館の女主人」「家族の秘密」などを収録。
「恐怖のベッド」
パリに留学していた青年は、立ち寄った場末の賭場で大勝ちする。しかし酒に酔って、居合わせたフランス人の退役兵の忠告をされる。
「君はこれまでの勝ちでよしとしてここは引き上げた方が無難だぞ。」
その晩は勝ち金を持ったまま賭場の2階に泊まった。天蓋付きの四柱式寝台で寝ることになり、寝台に仰向けになっていて、天蓋が音もなく、ごくゆっくりと下降していることに気づき、震え上がった。
その寝台は窒息殺人装置で、過去何人もの賭博者を葬ってきたらしい。案内された寝室のベッドには、恐るべき仕掛けがされていたのだった。
「盗まれた手紙」
結婚を間近に控えた青年が、なじみの弁護士に泣きついてくる。婚約者の亡父のスキャンダルを記した手紙を持った男に恐喝されているという。過去に済んだことだが、その手紙が公表されれば結婚が破談になるのは明らかである。恐喝は泊まっているホテルの一室にその手紙を隠しているはずである。弁護士の腹の探り合いと駆け引きとなる。
「グレンウィズ館の女主人」
絵を描くために大地主ガースウェイト氏の屋敷に滞在していた肖像画家は、近所のグレンウィズ館で世捨て人のような生活をしているミス・ウェリン婦人を聞かされる。
若き日のミス・アイダ・ウェリンと妹のロザモンドの身に降りかかった気の毒な事件があった。歳の離れた妹のロザモンドを母親代わりに育て、溺愛していたが、父と訪れたパリで、南米で事業に成功したフランヴァル男爵と知り合い、男爵は恋に落ちる。
やがてふたりは結婚するが、ロザモンドの頼みででアイダも話し相手として同居を続けた。ある人物が現れて、アイダに哀しい事実を告げられる。
「黒い小屋」
貧しい石工の一人娘ベッシーは、父が仕事で隣町に出かけて、「黒い小屋」と呼ばれた自宅で初めてひとりで夜を明かす。
たまたま訪れた近所の郷士夫妻から、大金が入った財布を一晩預かる約束をしてしまう。
日暮れると、付近は寂しくなるが、降り出した雨の中、石工仲間でも悪名高いふたりの荒くれ男が小屋にやって来た。
ふたりはベッシーがひとりきりでいるのと財布の存在を知ると、脅しをかけて小屋へ侵入しようとする。しかしベッシーは知恵と勇気で気丈に対応して、自分の命と預かった財産、信頼と名誉を守り抜くのであった。
「家族の秘密」
主人公の父親は開業医で、末弟のジョージ叔父は助手として働いていた。叔父は主人公を可愛がってくれが、病気で転地療養していた時に、姉の病死と同時に理由もわからないまま失踪してしまう。両親に問いただしても、何も話してはもらえない。
成長した主人公は船乗りとなり、ヨーロッパ各地を回っていたが、訪れた南仏の町で、叔父の消息と切ない事実を知る。
「夢の女」
頭の鈍い青年アイザックは母と二人暮しで、職を求めた帰りに泊まった宿で、真夜中にリアルな不思議な夢を見る。
ベッド脇に現れた若い女が、ナイフを振りかざして襲い掛かってきた。その時刻はアイザックの誕生日で、生まれた時刻であった。
それから7年後、町で見かけたレベッカという女性と恋に落ちて結婚するが、老いた母親は反対した。レベッカはあの時の夢に現れた女と瓜二つなのだった。
「探偵志願」
下宿屋を営む商人ヤットマン夫妻が、全財産でもあった銀行券を盗まれる。
警察上層部とのコネで刑事捜査部に加わった青年マシュー・シャーピンは、事件の捜査にあたる。ところが自惚れ屋で自信たっぷりのマシューは、やることは見当違いばかり。
上司のシークストン警部に送られる報告書は、犯人逮捕目前と的外れなもの。
しかし警部とベテランのブルマー巡査部長は、報告書の中身から真犯人をあっさりと突き止めてしまう。
「狂気の結婚」
精神病院を抜け出して、狂人と結婚してアメリカへ逃亡した噂の女性から、旧友へ宛てた手紙には、事件の真相が書かれていた。
身分違いの女性に求婚しただけで、精神異常と診断されて、閉じ込められて悪意ある親族のせいで一生を棒に振りかねそうな青年の悲劇は、イギリスで実際に起きていたという。
ウィルキー・コリンズ(William Wilkie Collins)
1824年ロンドン生まれ。法律家修業を経て、20代後半から作家活動に入る。
30代半ばで発表した『白衣の女』で一躍脚光を浴び、1860年代に大流行したセンセーション小説の礎を築いた。
代表作は『白衣の女』『ノー・ネーム』『月長石』など、世界最初の長篇推理小説としても知られる。1889年没。
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