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2025年3月 9日 (日)

小沼丹推理短篇集 古い画の家 (中公文庫)

小沼丹推理短篇集 古い画の家 (中公文庫)

「これは古い池だから、いろんなものが沈んでるだろうな」――江戸川乱歩の慫慂を受け「宝石」に発表した表題作他、私小説の名手が活動初期に書き継いだ、スリルとユーモアとペーソス溢れる物語の数々。

巻末に単行本・全集未収録の推理掌篇、および代表作〝大寺さんもの〟幻の第0作「花束」を収録。文庫オリジナル。

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【目次】

古い画の家

手紙の男

クレオパトラの涙

ミチザネ東京に行く

二人の男

奇妙な監視人

赤と黒と白

王様

リャン王の明察

(附録 単行本・全集未収録作品)

海辺の墓地

花束

〈解説〉三上延


古い画の家 

江戸川乱歩に依頼されて「新青年」に掲載された初短編「クレオパトラの涙」についで第二作品である。「探偵雑誌が久しく忘れていた面白さ」と絶賛された。

中一の「俺」は、夏休み、山国に住む叔父の家に行く。いとこと仲良しになって遊んでいると、「化物屋敷」の古い洋館を見つける。のぞいてみると、老婆がいた。家には病気療養中の若者がいるという。そこで首を括って死んだ人がいるらしい。そして真相が明らかになる。ラストの古いカッパ池の描写が象徴的で、何かが沈んでいる。

リャン王の明察

エジプト王ランプシニトスの逸話に、非常に似ている物語。小説では東洋の出来事になって、三日間にしなければいけない迷信が三度も書かれて、シニトスにはない特徴がある。

● ミチザネ東京に行く

カレーライスとカツ丼が日本一おいしいご馳走という、田舎出の青年ミチザネ。

単身で汽車に乗り、上野に到着したが、迎えに来るはずが来ない。あらわれたのは雇われたギャングだった。危ういミチザネ。ギャング団の男のキャラがユーモラス、女のキャラが色っぽい、魔都東京。滑稽で楽しい話が、なんとも懐かしくユーモラスに書かれている。

手紙の男

友人のサカタには恋人チヨがいた。結婚を約束したが、結局は別れてしまう。チヨの兄だという男に呼び出されて、彼女の自殺を知り遺書も見せられる。

しばらくして遺書と手紙を30万円で引き取れというのだ。何回か指定された場所に行くが、姿をあらわさない。それから妙案を思いつき実行するのだが。

● 王様

架空の国の王様がミステリーの探偵役になるように、大臣に宝石店を舞台に設定させる。だが想わぬ展開となり、犯人役は身動きが取れないまま拉致された。新しいアラビアンナイト風ユーモア小説。

赤と黒と白
赤井カネは夫婦でブラジルへ渡り、成功して帰国する。東京近郊に広大な土地を買い、洋館を建て洋野菜を栽培する。夫は亡くなったが、老いてなお盛んだ。

甥の黒田は唯一の遺産相続人。酒好き女好きで、伯母が一日も早くあの世に行くことを願っている不届きもの。伯母は野良猫に夫の名をつけて可愛がっていた。その猫が銃殺された。

犯人は近くに住む薄気味悪い白浜だと決めつけていた。いつか仇をとってやる。黒田は白浜に近づき相当の報酬で伯母の殺人を依頼する。伯母は伯母で白浜に遺産狙いの甥っ子の殺人を依頼する。殺意の三角関係。ブラジル時代、銃を経験したカネだった。クライムノベル度の高い作品。

花束

交通事故で突然、妻が亡くなった大寺さん。大学の先生をしている。大学二年生と高校二年生の娘たちは、その悲しみを乗り越えたように気丈に振る舞っていたが、大寺さんはショックが尾を引いていた。

それまで家のことは妻にまかせっきりだったので、預金通帳や印鑑などがどこにあるのかわからない。

夏休みに若い友人が信州の追分に、別荘を建て招かれる。妻不在の初の家族旅行。大寺さんには、なじみの地に妻の墓を建てることを決めた。子どもたちが前倒しで誕生日を祝ってくれることになった。清楚な菊の花束を贈られる。妻孝行したいとき妻はいない。

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小沼丹の著作のなかで、愛読されてきた作品群に、一連の「大寺さんもの」がある。 

大寺さんは昭和39年5月「黒と白の猫」に初めて登場した。

「昔は面白い話を作ることに興味があつた。それがどう云ふものか話を作ることに興味を失つて、変な云ひ方だが、作らないことに興味を持つやうになった。突然女房の死に出会つて、気持の整理をつけるためにそれを小説に書かうと思つた。最初は一人称で書く心算だつたが、どうもうまく行かない」(「懐中時計」)。


「それが書けたのは、大寺さん、を見附けたからである。一体どこで大寺さんを見附けたのか、どこから大寺さんが出て来たのか、いまではさつぱり判らない」(「十年前」)。


それから昭和56年3月「ゴムの木」まで17年間、「大寺さんもの」は12作品に書き継がれた。

 『懐中時計』『銀色の鈴』『藁屋根』『木菟燈籠』『埴輪の馬』五冊の単行本に収められた「大寺さんもの」12作品(未知谷版全集では第二巻・第三巻に既収)がある。

原稿450枚に及び一冊に纏められなかった連作作品群が集成された。

「鬱屈した気分の折、私はしばしばこの『大寺さんもの』に心いやされたという経験がある。憂鬱な気持をもてあました時、私はよくベッドにこの作品群を持ちこんだものだ。小沼ファンはみな同様の経験をしていると私は思っている」(大河内昭爾「小沼さんの視線」)


【文庫解説】より

「物語が進むにつれて主人公たちをより深刻な危機に陥らせ,サスペンスを高まらせるのが定石なのだが,山場でも節度を保ったユーモアにくるんで結末までもっていく」

「行き違いを増幅させて騒動をもりあげるようなあけすけさはない」

「今ここで事件が起こっている,と読者に錯覚させるような臨場感に筆を振るわない」


小沼丹 [おぬま たん] 大正7年、東京生れ。

昭和14年、明治学院在学中に「千曲川二里」を発表。井伏鱒二を訪問して師事する。

昭和15年、早稲田大学文学部英文科入学。

昭和29年「村のエトランジェ」刊。昭和30年「白孔雀のいるホテル」刊。両表題作とも芥川賞候補となる。

昭和33年、早稲田大学文学部英文科教授。「黒いハンカチ」刊。昭和44年「懐中時計」刊、読売文学賞受賞。

昭和45年「不思議なソオダ水」刊。昭和46年「銀色の鈴」刊。

昭和47年、早稲田大学在外研究員として半年間渡英。「更紗の絵」刊。昭和49年、ロンドン滞在記「椋鳥日記」刊、平林たい子賞受賞。昭和50年「藁屋根」刊。昭和51年「小さな手袋」刊。昭和53年「木菟燈籠」刊。

昭和5455年「小沼丹作品集」(全五巻)刊。

昭和55年「山鳩」刊。昭和61年「埴輪の馬」刊。平成1年、日本芸術院会員。平成4年「清水町先生」刊。平成6年「珈琲挽き」刊。平成8年11月歿。

平成10年遺稿集「福寿草」刊。 16年、未知谷より「小沼丹全集」全4巻刊、17年「風光る丘」刊、「小沼丹全集 補巻」刊。

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