「天城越え」松本清張の短編小説。
1959年11月『サンデー毎日』特別号に、「天城こえ」のタイトルで掲載。1959年12月に、単行本『黒い画集2』収録され光文社刊行。
【あらすじ】
三十数年前に16歳の私は、天城をはじめて越えた。私の家は下田の鍛冶屋であったが、なんとかして他の土地に出ていきたいと思っていた。静岡にいる兄が羨ましくてならず、6月の終わりに、希望を決行する。
天城のトンネルを通り抜けると、別な景色が広がっていた。そこに「他国」を感じる。
湯ヶ島まで来ると夕方近くなっていた。
大男が歩いており、すぐに他所者だと分かった。
「あれは、土工だね。ああいうのは流れ者だから、気をつけなければいけない」
呉服屋からそう言われた。
静岡に行く元気がなくなった私は、下田に引き返すことにする。
そのとき、修善寺の方角からひとりの女が歩いてくるのが目についた。その女が過ぎてから足の向きを変え、わたしはあとを歩いた。「そいじゃ、ちょうどいいわ。下田までいっしょに行きましょうね」
私は自分でも顔のあかくなるのを覚えた。
しばらく行くと、前方にあの土工の姿がある。女は、ゆっくり峠の坂をあがっていく土工の後ろ姿を凝視した。
「あの人はなんだろう?」
聞かれて私は「流れもんの土工ずら」と言った。
万一、土工が女に悪いことをしそうだったら、私は女を防ぐつもりだった。ところが、女は、私に向かって「兄さん、悪いけれど、あんた、先に行って頂戴」と言う。
私はうなづいたけれど、急に、がっかりした。女があとから追いついてくるという言葉に期待をかけて、ゆっくりと歩いたが女は来なかった。
それから三十数年経った。
静岡県西部の中都市で、印刷業を営んでいる。最近に静岡県警察本部のある課から「刑事捜査参考資料」という本の印刷を頼まれた。製本した本を何気なく読むと、静岡県内の犯罪例の中に、三十数年前、私が天城越えのときに遭遇した土工と、女のことが書いてあった。そして私自身も登場していた。私は「天城山の土工殺し事件」と題するこの文章を読んで、三十数年の昔を回想せずにいられなかった。
それから五日目に、その本の印刷を注文した警察本部の人が来た。田島という老人で、いまは刑事部の嘱託になっていた。
「どうですか、あなたも、これを読みましたか?」
「実は、それは私も捜査に参加した事件でしてね。この原稿を書いたのも私ですよ」
「実は、これは私の失敗談のようなものです」「なにしろ、私たちははじめからあの女がホシだと思いこんでいましたから」
「事件の解決は別なところにある」
そして事件の真相に迫ろうとしていた。
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