カポーティ『ミリアム』Miriam
トールマン・カポーティ『ミリアム』原題はMiriam。
冬のニューヨーク、マンションに住む老女の身に起きる不可解な出来事を描いた短編。
【あらすじ】
ミセス・ミラーは夫と死別して、保険金で倹しい暮らしをしている。
ある夜、出かけた映画館で彼女は一人の少女、ミリアムに出会う。独特な個性を持つ少女に何か惹かれるものを感じる老婦人。二人にはある一つの共通点があることも分かる。だが、ミリアムとの会話には少し違和感も感じる彼女。
そして、数日後のある夜に突然、ミリアムが老婦人の家を訪れて来るところから、違和感は完全に不穏へと傾く。
お腹が空いたと言ってサンドイッチを作らせたり、声を聞きたいと寝ているカナリアを起こそうとしたり、勝手に寝室に入って宝石箱を開けたりと、奔放に振る舞うミリアムだったが、他人事ではない。
帰るように促すと、機嫌を損ねたミリアムは花瓶を床に叩きつけて、粉々に割ってしまう。花束を脚で踏みつけて出て行った。
翌日にミセス・ミラーはベッドの中で過ごしたが、次の日になると気分は良くなっていた。小切手を現金に換えて、外で朝食をとり、ショッピングを楽しもうと街をぶらぶら歩いた。
ショッピングバッグを腕いっぱいに抱えた老人が、なぜか後ろをつけてくる。彼女が花屋に入ると、老人は帽子を上げて挨拶して、歩調をゆるめずに店の前を通り過ぎて行った。彼女は新しい花瓶を買って、マンションへと戻った。
またもミリアムが訪ねてきた。美しいフランス人形を抱えて、ボール箱の上に座っている。家に入れるつもりはなかったが、不思議なことに少女の言いなりになってしまう。ミセス・ミラーがボール箱を開けると、もうひとつの人形と服が入っていた。
「ここに住むつもりで来たの」と少女は言うのだ。
ミセス・ミラーは泣きだした。長いあいだ泣いていなくて、不自然な泣き方になった。彼女は部屋を飛び出して、下の階に暮らす若いカップルに助けを求めた。
男の方がミセス・ミラーの部屋を調べに行ったが、少女はいない。大きなボール箱も人形もそこにはなかった。
ミセス・ミラーは部屋でひとり、神の啓示を待つかのように超自然なトランス状態に入る。自分を取り戻したことに満足して耳をすましている。ミリアムはミセス・ミラーが見ている幻影であり、闇へと誘う危険な存在なのだろうか。
《その週はずっと雪だった。車も人間も、音もなく通りを行き来した。まるで日常生活が、薄いけれど突き通せないカーテンの向こうでひっそりと続いているようだった。雪が静かに降り続くなかで、空も地面も見えなかった。ただ雪だけが風に舞っていた。雪は、窓ガラスを白くし、部屋を冷たくした。雪のために町は死んだように静まりかえっていた。》(「ミリアム」)
《その夜、彼女はスクランブルエッグとトマトスープを作った。夕食を終えると、フランネルの寝巻を着て、顔にコールドクリームを塗り、足の下に湯たんぽを入れてベッドに入った。ベッドのなかで「ニューヨーク・タイムズ」を読んでいるとドアのベルが鳴った。》(「ミリアム」)
● 一度読んだら脳内に侵入して、記憶として物語が再構築されてしまいました。「あれはいつの出来事だったのだろうか?」
カポーティが「ミリアム」を発表した年齢が19である。11歳で短編を書いて、とにかく10代でこの完成度は凄い。カポーティは17歳で雑誌「ザ・ニューヨーカー」に勤め詩人のロバート・フロストを怒らせてクビになったらしい。そのあと、この「ミリアム」を書いて、O・ヘンリ賞を受賞している。
カポーティ作品の多くは不気味だが、上品な艶っぽさがあり、ちょっした描写が美しい。
〈不安な気持ちは続いた。複雑な交響曲のなかの、とらえどころのない不思議な主題のように、ひとつの夢がほかの夢のあいだを糸で縫うようにあらわれる。
ベネチアン・ブラインドを通して斜めに差し込んでくる荒削りの板のような太陽の光が、彼女の不健全な空想を打ち砕いていくようだった。〉
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