「太陽の帝国」 J・G・バラード(創元SF文庫)
少年はコンクリートの箱庭で、飢えと病、
暴力と死、そして自由を知った。
<破滅三部作>で知られる20世紀SFの巨匠の名を不動のものとした瞠目の傑作長編。
日中戦争中の上海。日英間の開戦を機に日本軍が上海のイギリス租界を制圧し、少年ジムは避難民の大混乱のなか両親とはぐれてしまう。独りぼっちになったジムは混乱する都市を彷徨う中、ほかのイギリス人とともに日本軍によって龍華捕虜収容所へ送られる。信用できる大人も庇護もないまま、飢餓、病、孤独、絶望に晒されながら、ジムは生と死の本質を学んでいく――スピルバーグによる映画化で知られる、二十世紀の歴史に名を刻むバラードの代表作。
Wars came early to Shanghai, overtaking each other like the tides that raced up the Yangtze and returned to this gaudy city all the coffins cast adrift from the funeral piers of the Chinese Bund.
During the winter of 1941 everyone in Shanghai was showing war films.
「『太陽の帝国』は、第二次世界大戦中の上海と、わたしが一九四二年から四五年まで収容されていた龍華(ロンホワ)CAC(一般人捕虜収容所)での個人的な体験から生まれたものである。この作品の大部分は、日本軍の上海占領期間中及び龍華の収容所の内部で、わたしが目にした出来事に基づいている。
日本軍による真珠湾攻撃は、一九四一年一二月七日の日曜日の朝に行われたが、太平洋上を通る日付変更線のために、上海ではそのときすでに一二月八日の朝を迎えていた。
J・G・バラード
「川に流された棺が、川岸に何度も戻ってくる」
冒頭とラスト一行に、同じエピソードを持ってきて、著者自身も意図して使用していると思われる。
日本兵の姿が再び見えたことで、彼は自信を回復した。これから殺されるのだと思うと興奮を抑えきれない――すべてが不確かであったこの一週間が過ぎたあとでは、どのような形であれ、彼にとって終わりは歓迎すべきものなのだ。死を数分後に控えた最後のときには、みずからに歌いかけたあの人力車夫のように、誰もが自分の心を完全に知るだろう。何が起ころうと、彼は生き残るのだ。ミセス・フィリップスとミセス・ギルモアが、そして魂が死にゆく肉体を離れるその一瞬について彼女たちと交わした会話が思い出される。ジムの魂はすでに肉体を離れ、もはや生きながらえるためにその貧弱な骨やただれた皮膚など必要としないのだ。彼は死んでいる。ミスター・マクステッドも、ドクター・ランサムも死んでいる。龍華にいる誰もが死んでいるのだ。彼らがそれを理解していないのは、結構なことだった。
(本書P.305-306より)
バラード,J.G.(Ballard,J.G.)
英国を代表する作家。1930年、上海生まれ。「人間が探求しなければならないのは、外宇宙ではなく、内宇宙だ」として、SFの新しい波運動の先頭に立った。終末世界を独自の筆致で美しく描き出した〈破滅三部作〉と呼ばれる『沈んだ世界』『燃える世界』『結晶世界』や、コンデンスト・ノベルと名づけた手法で書き上げた短編を発表し、その思弁性が多くの読者を魅了した。
本書『太陽の帝国』はスピルバーグ監督、『クラッシュ』はクローネンバーグ監督、『ハイ・ライズ』はベン・ウィートリー監督によって映画化された。
他の著作に《J・G・バラード短編全集》全5巻、『殺す』『コカイン・ナイト』『人生の奇跡 J・G・バラード自伝』など。2009年没。
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