『手から、手へ』著者:池井 昌樹撮影:植田 正治編:山本 純司(集英社)
一回だけの人生だけど、一回じゃない。
「やさしい子らよ」と「ちちはは」はつながっている。
読後に、今迄に感じたことのない大きな安心が読者を包む。
詩は三好達治賞など数多くの受賞歴に輝く現代詩人の池井昌樹。
ひらがなでうたう詩は命の奥底からの声。写真は植田正治。
戦前戦後を通じて鳥取島根で活躍。「植田調」といわれる作品は植田だけの世界。何気なくて深い。世界で高く評価されている。
ことばと写真の奇跡の出会いで生まれた家族のものがたり。支持され続けてロングセラー。
「手から手へ」池井 昌樹
やさしいちちと
やさしいははとのあいだにうまれた
おまえたちは
やさしい子だから
おまえたちは
不幸な生をあゆむのだろう
やさしいちちと
やさしいははから
やさしさだけをてわたされ
とまどいながら
石ころだらけな
けわしい道をあゆむのだろう
どんなにやさしいちちははも
おまえたちとは一緒に行けない
どこかへ
やがてはかえるのだから
やがてはかえってしまうのだから
たすけてやれない
なにひとつ
たすけてやれない
そこからは
たったひとり
まだあどけないえがおにむかって
やさしいちちと
やさしいははは
うちあけようもないのだけれど
いまはにおやかなその頬が痩け
その澄んだ瞳の凍りつく日がおとずれてても
怯(ひる)んではならぬ
憎んではならぬ
悔いてはならぬ
やさしい子らよ
おぼえておおき
やさしさは
このちちよりも
このははよりもとおくから
受け継がれてきた
ちまみれなばとんなのだから
てわたすときがくるまでは
けっしててばなしてはならぬ
まだあどけないえがおにむかって
うちあけようもないのだけれど
やさしいちちと
やさしいははとがちをわけた
やさしい子らよ
おぼえておおき
やさしさを捨てたくなったり
どこかへ置いて行きたくなったり
またそうしなければあゆめないほど
そのやさしさがおもたくなったら
そのやさしさがくるしくなったら
そんなときには
ひかりのほうをむいていよ
いないいないばあ
おまえたちを
こころゆくまでえがおでいさせた
ひかりのほうをむいていよ
このちちよりも
このははよりもとおくから
差し込んでくる
一条の
ひかりから眼をそむけずにいよ
(池井 昌樹)
池井 昌樹(詩人)
植田 正治(写真家)
山本 純司(編集者)
現代詩人・池井昌樹と日本を代表する写真家である植田正治、企画・構成を担った山本純司による共著『手から、手へ』。
集英社でさくらももこ達を世に送り出した編集人・山本純司の熱意から生まれた、詩と写真で綴られた「家族のものがたり」。
谷川俊太郎が池井昌樹の『手から、手へ』を朗読した場に鉢合わせた山本は、詩の調べと言葉の断片が、体にまとわりついて離れない衝動に掻き立てられて、「これは絵本になる、絵は植田正治の写真だ」と考えて以来植田正治の作品集を買い集める。池井の詩にマッチする図版を探しだして、見開きの右側を詩に、左側を写真にした試作品を2年以上かけて創作した。
その後に植田正治事務所へ使用許諾を取り付け、佐藤卓にアートディレクションを、日下部昌子にデザインを託して、2012年に刊行され増版を繰り返して注目される。
「ここが家だ!ベン・シャーンの第五福竜丸」(2007年日本絵本賞受賞)、「ひろしま」(2008年 毎日芸術賞受賞)を企画編集。齋藤孝と共に、NHK『にほんごであそぼ 雨ニモマケズ』も企画編集。
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