『コーヒーと恋愛』獅子文六
『コーヒーと恋愛』獅子文六
1962(昭和37)年11月から翌5月まで、読売新聞に連載されたユーモア小説。
【目次】
コーヒーと恋愛
それもある
テレビ病
同人会
今年の縁喜
稽古
朔風
多忙な日
生活革命
和敬清寂
たたり目
コーヒー夫婦
テレ牛異相
野火止め
鍵
おしまい
『可否道』を終えて
解説 曽我部恵一
テレビがまだ新しかった頃、お茶の間の人気女優 坂井モエ子43歳はコーヒーを淹れは抜群にうまい。
「彼女のいれたコーヒーは、まったくウマい。色といい、紫陽花といい、香りといい、絶妙である」
そのコーヒーが縁で、演劇に情熱を注ぐ上品な青年であるベンちゃんと仲よく生活が続いていた。
「こんな旨いコーヒーは、東京じゅう歩いたって飲めない」
彼は上品な生まれつきで、押しかけるとか、好みはしないのだが、モエ子のコーヒーばかりは抵抗の力を失った。
眼が優しくて眉が黒い八歳年下の彼氏だが、突然に今のままじや腐敗してしまうと、宣言して若い研究生で関西生まれの女優の元へと去ってしまう。
久しぶりで彼女は孤独という友人に再会した。
芸術の理想を持って、結ばれた二人なら。
「呉れてやるわよ。いさぎよく」とはいうものの、悲嘆に暮れる。モエ子はコーヒー愛好家の友人に相談して、人間味溢れる人々が寄り添う。コーヒー通の集まりである可否会の連中でも、コーヒーの知識や講釈にかけては、彼女以上の練達者が多いけれど、コーヒーを淹れる技術になると、彼女が断然とリードしていた。
そんなモエ子はベンちゃんとよりを戻すのか、それとも新たな人と結ばれるのか?
そして順調だったオバサン女優業にも、影を落とすことになる。
ベンちゃんの関わっている劇団「新潮」は、二つの潮流に別れて、旧潮と新潮が渦巻いていた。そんな空気が何ともやり切れない。その気焔に共鳴したのが丹野アンナという女優の卵であった。
業界内での三角関係、奇人変人揃いの可否会のメンバーたちが、コーヒーのほんわか茶道的展開で、おいしい珈琲が飲みたくなってくる。
「コーヒー好きには、とかく精神主義者が多い。珈琲豆を生き物として扱い、旨くコーヒーを淹れるのは、愛情であり、奉仕であると考えてる。道具の扱い方、湯の注ぎ方、口へ持っていく仕草にも、森厳な作法がなければならぬ」
地下鉄丸の内線が開通された頃の、荻窪にある高級なアパートが舞台で、都会的なライトノベル風な文章は、さほど時代ギャップを感じることなく読める。たぶんテレビや演劇界に、ヒロインが生きているから、業界で仕事をしたことがある人には「あゝ、こういう奴はいるいる」と思えてしまうのだろう。
作者は文芸座を立ち上げたり、フランス社会にも触れていて、初々しい軽妙なハイカラ人格ぶりであったとおもわれる。
「コーヒーを味わう目的は、俗念を洗うためで、清澄な感情と思考を喚起して、人生を高めることだ」
「どんな水がコーヒーに合うのか、感心するくらいよく知っていた」
「コーヒー熱は倍加した。道楽だったのが、発狂とハッキリ区別ができた」
コーヒー仲間の可否会メンツが語らう会話は当時の人たちに、相当トッポいって感じられたんだろうなぁ。というかこんな洒落っ気ある小説を、今に書いたら、一般読者層は増加していくのではないかと思える。これはハードカバー単行本よりも、手軽な文庫本。それより電子書籍で読みたい。
朝ドラアニメにもなるなと、勝手にヒロイン主役のキャスティングを妄想してる。
「舟を編む」「とと姉ちゃん」「べらぼう」など、出版編集をドラマにしたドラマを観て盛り上がっている。
『コーヒーと恋愛』獅子文六 (筑摩書房)
https://share.google/b4gnjH0OUtakFQXOH
獅子 文六
日本の小説家、演出家。本名:岩田 豊雄。演劇の分野では本名で活動して、久保田万太郎、岸田国士らと文学座を創立して顧問となる。小説『金色青春譜』を発表、ユーモア文学に新境地を開く。戦中・戦後と人気を博して『悦ちゃん』『達磨町七番地』『おばあさん』などの小説を婦人雑誌や新聞に発表。
3番目の妻の幸子夫人は吉川重吉の5女である。昭和44年(1969)に文化勲章受章、その翌月の12月13日に76歳で死去。
●コーヒーと恋愛|文学座
« 「居丈高」の意味・読み・例文・類語 | トップページ | 群馬コーヒー事件 »




コメント