『レベッカ』デュ・モーリア(新潮文庫)
『レベッカ』デュ・モーリア(新潮文庫)
ゆうべ、またマンダレーに行った夢を見た――この文学史に残る神秘的な一文で始まる、ゴシックロマンの金字塔、待望の新訳。海事故で妻をくった貴族のマキシスに出会い、後妻に迎えられたわたし。
だが彼の優雅な邸宅マンダレーには、美貌の先妻レベッカの存在感が色濃く遺されていた。
〈雲が、それまで姿を見せていなかった雲が月にかかって、顔の前に突きだされた暗い手のように、ほんの刹那、そこに留まった。その途端、幻が去り、窓の灯もかき消えた。目に映るのは荒れ果てた抜け殻、無言の冷たい壁面に過去の名残さえ留めず、亡霊がさまよい歩くこともない、いまや魂のこもらないただの形骸となった家だった。
この屋敷は墓所ーーわたしたちを脅かした不安や苦しみは廃墟に埋められ、二度と甦ることはない。〉
その後、「わたし」は、亡き前妻レベッカの見えざる存在に悩まされる。残るやシワ身体に圧倒され、そこにかつてのレベッカの侍女ダンヴァース夫人が突然現れ、次にタンの中の彼女の衣装を見せつけられる。 冷や汗をかいて退散する「わたし」。
「どうしてマキシムはレベッカを連れてこなかったの? レベッカが大好きなのに。わたしの大好きなレベッカはどこ?」
マンダレーで開かれた豪華な仮装舞踏会の翌日、海底から発見されたレベッカのヨット。キャビンには、一年以上前に葬られたはずの彼女の死体があった――。混乱するわたしにマキシムが告げた、恐ろしい真実。変わらぬ愛を確信し、彼を守る決意を固めるわたし。だが、検死審問ののちに、マキシムすら知らなかったレベッカの秘密が明らかになっていく。魅惑のサスペンス、衝撃の結末。
「わたし」という人間が、変貌してしまうのも実に痛ましい。「ぼくが好きだった表情、なんだか途方に暮れたような、あのおかしな初々しい感じ、あれが消えてしまった。もうもどってこない。」とマキシムの台詞に暗澹たる気分になって、何と切ない物語であろう。
● Rebecca 1940 Psychological Thriller - Alfred Hitchcock, Laurence Olivier, Joan Fontaine 1080P - YouTube
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サスペンス映画の巨匠ヒッチコック監督に1940年、主演ローレンス・オリヴィエで映画化もされて、アカデミー作品賞、撮影賞受賞した。
「レベッカ、あの浅黒い真剣な顔、聖人を思わせる狂信的な大きな目、象牙のような尖った白い歯の潜む小さな口、そして、黒く輝き、荒れ狂う、手に負えない髪の光輪―― そう、あれ以上、美しい人はいまだかつていなかった。誰がきみの心を見抜くだろう? 誰がきみの考えを見抜くだろうか?」
古めかしい文章で、翳りある展開は、ヒッチコック好みの作品で、彼の他の映画にも色濃く影響を与えている。
Du Maurier,Daphne
(1907-1989)5月13日ロンドン生まれ。祖父はフランスから移り住んだ人気画家、父は『ピーター・パン』の作者、J.M.バリーとも親交のあった有名俳優という芸術家一族に育つ。自立のために小説家を目指し、20代のころ後の映画監督キャロル・リードと恋愛関係になるが、結局、イギリス軍人のブラウニングと結婚、1男2女をもうける。『レベッカ』は、1938年の刊行直後に英米でベストセラーになり、1940年にヒッチコックによってハリウッドで映画化され、アカデミー賞を受賞。「20世紀のゴシックロマン」「ミステリーの金字塔」と賞され、1978年にアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞グランドマスター賞を受賞している。清楚な美人だが、社交嫌いで静かな生活や散歩を好み、このあたりの性格は『レベッカ』の主人公に投影されている。主な著書に『鳥』『レイチェル』『破局』など。
ベストセラー小説の多くは、彼女が人生の大半を過ごしたコーンウォールを舞台としている。彼女は1969年に大英帝国勲章第1位(DBE)を授与されて、1989年に亡くなった。
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