『若者はみな悲しい』フィッツジェラルド(光文社古典新訳文庫)
『若者はみな悲しい』フィッツジェラルド(光文社古典新訳文庫)
「ジャズ・エイジ」の華やかなイメージが強いかもしれないが、この作家は必ずしも永遠の若者であったわけではなく、案外クールな、皮肉、諧謔、滑稽の味をにじませる職人肌のストーリーテラーでもあった。(訳者)
理想の女性を追いつづける男の哀しみを描く「冬の夢」。わがままな妻が大人へと成長する「調停人」。親たちの見栄と自尊心が交錯する「子どもパーティ」。アメリカが最も輝いていた1920年代を代表する作家が、若者と、かつて若者だった大人たちを鮮やかに描きだす珠玉の自選短編集。
〈収録作品〉
お坊ちゃん
冬の夢
子どもパーティ
赦免
ラッグズ・マーティン=ジョーンズとイギ○スの皇○子 ※
調停人 ※
温血と冷血 ※
「常識」
グレッチェンのひと眠り ※
(※は本邦初訳)
【本書】より
四月になると、冬は唐突に終わった。雪どけ水がブラックベア湖へ流れる。気の早いゴルファーは、赤や黒のボールを飛ばして冬を追い立てようとするのだが、雪のほうから消えていく。水ぬるむ風景美など見せるまでもなさそうに、寒い季節は去っていた。
北国は春が憂鬱なものである。むしろ秋こそが輝かしい。秋になるとデクスターは手を握りしめ、ふるえるほどの力を込めて、他愛もない言葉を心の中で繰り返し、民衆や軍隊を夢想しては、きびきびした指示を発した。十がつは希望にあふれ、それを十一月が勝利に酔う高みへ押し上げた。(91ページ)
身なりが整うようになったデクスターには、アメリカでも有数の仕立屋がわかっていた。今夜もそのような名店の品を着ている。出身大学の伝統としては他校にない格調が、デクスターの身にもついていた。伝統を重んじ、型に合わせることが大事なのだと心得ている。気軽な服装で心安い態度をとるのは、よほどに自信がなければできないことだ。そんなのは次の世代になってから。デクスターの母親は旧姓をクリムズリックといって、もとはボヘミアの農民の娘だった。しゃべる英語は最後までおかしかった。その息子では、まだまだ形式にこだわる必要がある。
七時をまわってジュディ・ジョーンズが降りてきた。青いシルクのアフタヌーンドレスだ。もっと装いをこらしてくれてもよいのにという心地がした。まず挨拶をかわしてから、その思いは強まった。配膳室のドアを押したジュディが、「じゃ、マーサ、そろそろお願い」と声をかけたのだ。なんとなく執事でも現れて食事の開始を告げ、カクテルでも出るのではないかと思っていた。とはいえ、二人でゆったりと長椅子に坐って見つめ合うにおよんで、そんなことはどうでもよくなった。
「今夜、うちの親は留守なのよ」と、ジュディは考えた末のように言う。
(「冬の夢」より)
The Rich Boy リッチ・ボーイ
大学の富裕層クラスメイトはお金持ちだけど、好きな女性が他の男性と結婚して号泣する。彼女を愛したようには他の女性を愛せないままで、やるせなさと喪失感。
Winter Dreams 冬の夢
長編『グレート・ギャツビー』の最初の下書きになった作品。庶民の男性が富裕層の女性に恋する。類まれな美少女にひたすら心を弄ばれる青年の不憫な話。あたかも女王のように振舞う美少女の傍若無人ぶりと、セイレーンの歌声に魅せられた船乗りのように破滅に突き進む青年の恋。他の男性と結婚して、今は老いてかつての美貌は失われてしまう。人生に問題があったから、戦争が始まるのは歓迎する若者が沢山いたらしい。
The Baby Party 子どもパーティ
子供連れのホームパーティーで、子供同士がぬいぐるみを取り合ったときに頭を床にぶつけてしまい、そのことで親同士が子供みたいな喧嘩をする。殴り合いになって、顔がローストビーフみたいになっててしまった。
Absolution 赦免
3rd長編『グレート・ギャツビー』プロローグ用に、幼少期を書いたが、謎を残すために不採用になった物語。
美少年ルドルフは懺悔の時に本当のことを言わず軽めの罪ばかりを告白する。両親の子ではない高貴で有能な別人格を妄想で作るが罪悪感からは逃れられない。
Rags Martin-Jones And The Pr-ice Of W-les ラッグズ・マーティン=ジョーンズとイギ〇ス皇〇子
富裕層の女性のしゃべり方が、アメリカ人には何の想像力がない、パリは文明社会の女性が呼吸できる唯一の大都市であった。
庶民の男性が彼女の気を引く為に、ウェールズの王子が来るパーティーに彼女を連れて行くが彼は警察に追われている。
The Adjuster 調停人
子供は愛しているが、育児には発狂しそうになる。夫のことも嫌いで、子供がいなければ離婚したい。夫は妻の為に医者を呼ぶが先に神経衰弱で倒れる。妻はどうなるか、医者が鍵を握る。
Hot And Cold Blood 温血と冷血
お人好しで他人に金を貸したり騙されたり、家計の余裕がなくなる席を譲ったり疲れて妻を愛する余裕がなくなる。そんな夫に妻はブチ切れて、これから子供も産まれるし、夫は冷血に切り替える。
The Sensible Thing 常識
遠距離恋愛中の2人。彼はNYに行くが成功できず貧困状態に。そんな彼と結婚することは分別と良識があるが、彼女は求婚を断る。一年後に彼は成功して帰ってくるがどうすることか。
Gretchen’s Forty Winks グレッチェンのひと眠り
会社員を辞め独立した夫に、大きな仕事で富豪になるチャンスがくる。この6週間は多少無理してでも仕事に集中したい。その間は退屈させてしまうけど待っていてくれる。
執筆に集中したいスコット・フィッツジェラルドさんとパリピ妻ゼルダさんの関係と思われる短編。
F・スコット・フィッツジェラルド F.Scott Fitzgerald
[ 1896 - 1940 ] ミネソタ州セントポール生まれ。プリンストン大学在学中から創作を始め、1920年『楽園のこちら側』で文壇に登場、絶賛を浴びる。妻ゼルダとの、作中人物さながらの華麗な私生活も注目を集め、一躍時代の寵児となる。1925年発表の傑作『グレート・ギャッツビー』などでロスト・ジェネレーションを代表する作家として確固たる地位を築く。そのほかの代表作に、『ジャズ・エイジの物語』『夜はやさし』など。
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