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平野啓一郎『ある男』
「文學界」2018年6月号に掲載され、2018年9月30日に刊行された。第70回読売文学賞受賞。2022年に石川慶が監督を務めて、妻夫木聡主演で実写映画化された。
第46回日本アカデミー賞で最優秀作品賞に選出された長編小説。
誰もが一度は、思ったことはあるでしょう。
自分とは、一体何なのか。
自分は、どう生きていけばいいのか…と。
弁護士の城戸は、かつての依頼者である里枝から、「ある男」についての奇妙な相談を受ける。宮崎に住んでいる里枝には2歳の次男を脳腫瘍で失って、夫と別れた過去があった。長男を引き取って14年ぶりに故郷に戻ったあと、「大祐」と再婚して、新しく生まれた女の子と4人で幸せな家庭を築いていた。
次男を僅か二歳で亡くし、夫と離婚、長男を連れ、故郷に戻った里枝は、大祐と再婚し、娘も産まれ、幸せな家庭を築いていた。
そんな中、大祐が突然の事故で亡くなり、里枝は、悲しみに暮れながらも、大祐とは疎遠になっていた、彼の兄に連絡して遺影と対面したその兄から、衝撃の事実を知らされるわ
「死んだ大祐は、大祐ではないと」
自分の夫は、果たして何者だったのかと思った里枝は、かつて離婚調停で世話になった弁護士・城戸に調査を依頼したのだった。
城戸は過去に「大祐」と関わった人々と接し、話を聞きながら、彼がどう生まれ、どう生きてきたのかを知って、自身の人生をも見つめ返していく。
何故に自分は、こんな生まれ方をしてしまったのか。
こんな人生は、投げ出してしまいたい。
人生をやり直したい。
捨ててしまった、自分の人生。
新たに手にした、自分の人生。
死刑囚の描いた絵の展覧会で、生前に男が描いた絵と似た絵を城戸は見つける。その絵を描いた強盗殺人犯の小林謙吉は刑死していたが、誠という息子がいた。
男の写真を関係者に見せて誠が男だと突き止める。誠は前途有望なプロボクサーだったが、父親が殺人犯だと知られることを恐れて挫折し、その後の消息は誰も知らなかった。
里枝の夫は誠だと分かったが、法律上、里枝の一家は結婚前の旧姓に戻ることになる。
中学生に成長した息子に、これまで父親の墓を作れなかった理由を誠実に話す里枝。
美涼は本人に成りすましてフェイスブックを作り、谷口大祐という名前と夫の写真を掲載し続けていた。本物の大祐をおびき出す作戦だったが、ある日、曽根崎という男から、「偽物のサイトを閉鎖しろ」とのコメントが書き込まれた。このサイトの大祐が偽物と分かる曽根崎こそが本物の大祐だと確信して連絡を取り、恋人の美涼と対面させる城戸。本物の谷口大祐は自分を取り戻した。
実は誠は2回も名前を変えていた。小見浦から曽根崎の戸籍を買った後に、谷口大祐と名前を交換したのだ。全てを解決した城戸は日常業務に戻り、妻との仲も改善したかに見えたが、妻は浮気をしていた。
一方、里枝と話して父親について納得した息子は、幼い妹に、いずれ自分が父のことを説明すると頼もしい言葉を口にした。
「彼ら」の犯したことは、正しいことではない。それでも、そうせざるを得なかったからこそ、生きてこられた。
生きることに懸命な人を、一概に責めることはできない。これまで生きてきた意味、これから生きていく意味を見つめ返して、自分の存在意義を見出だしてほしい。
【映画】
弁護士・城戸を妻夫木、依頼者・里枝を安藤、里枝の亡き夫・大祐を窪田が演じた。
第46回日本アカデミー賞では最優秀作品賞を含む同年度最多の8部門(ほか最優秀監督賞、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞、最優秀助演男優賞、最優秀助演女優賞、最優秀録音賞、最優秀編集賞)を受賞した。
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