脳科学者の川島氏は、スマートフォンやタブレット端末などデジタル機器が、子どもたちの脳の発達や学力に対して、意図せぬ深刻な「副作用」をしてる可能性を科学的根拠から指摘している。
デジタル機器への依存から脱却して、脳の健康を取り戻す方法として、「読書」という行為を推奨している。
とりわけ声に出して読む「音読」や、親子間の「読み聞かせ」が、脳を驚くほど活性化させ、若返らせる力を持っている。
自身の長年にわたる研究成果や具体的な実験データを豊富に示しながら、分かりやすく解説しています。

『本を読むだけで脳は若返る』
第1章:読書は脳の「全身運動」である – 活性化と創造性の源泉
読書が単なる文字情報の受容でなく、脳全体の広範な領域を活動させる包括的な精神活動、「脳の全身運動」だと位置づけている。MRIを用いた脳活動計測実験では、小説や新聞記事などを黙読してると、物事を考え、学習し、創造性を司る重要な領域である「思考の脳」前頭前野が顕著に活性化するのが明確に示された。
文章の意味理解や記憶に関わる側頭葉、視覚情報を処理する後頭葉など、左右両半球にわたる複数の領域が連動して活発に働いてるのも確認されてる。この脳全体の協調的な活動が、読書を通じて脳の基礎的な能力を高める基盤となる。
読書は新たな発想を生み出す力、創造性を鍛える効果も持っている。大学生を対象とした実験では、提示された言葉やイラストを組み合わせて新しいことをする際、言語処理に関わる左半球の「思考の脳」の一部や、知識が蓄積されている側頭葉の下部が特に活動することが分かった。これらの領域は読書中にも活発に働く領域と重なっていた。
読書という行為が年齢に関わらず、脳の創造性を高めるトレーニングになルイボスのを示している。
読書媒体に関してデジタルコンテンツよりも紙媒体の方が、語彙の習得、文章内容の深い理解、知識の定着といった点で優れている研究結果が、心理学分野を中心に数多く報告されている。
その理由として電子メディアは読書以外の機能を多数備えているため、読書中に注意が散漫になりやすく、集中して内容を深く読むのを妨げる可能性が指摘される。
紙の本はページを物理的にめくる感覚や、気になる箇所へ瞬時に戻って読み返す容易さ、余白への書き込みといった、デジタルにはないことが理解や記憶の定着を助けると考えられる。
第2章:音読による脳機能の向上 – 記憶力回復から認知症改善まで
読書の効果をさらに高める方法として、「音読」を特に推奨してる。文字を目で追いながら声に出して読む音読は、黙読に比べて、視覚情報だけでなく、発声という運動指令、そして自身の声を聞くという聴覚情報も脳内で処理されるため、広範な脳領域を強力に活性化させるのがMRI実験で確認されている。この強力な脳の活性化は、具体的な認知機能の向上に繋がる。
この音読の効果は健常者だけでなく、アルツハイマー型認知症と診断された中度から重度の高齢者においても確認された。介護施設入居者を対象に、短い文章の音読やひらがなの拾い読みなど、負担の少ない音読プログラムを実施したところ、通常は進行を遅らせることが主目的となる薬物療法では達成が困難な、認知機能自体の「回復・改善」という顕著な効果があった。
音読には「脳のウォーミングアップ効果」もある。音読によって脳全体を適度に活性化させて、脳がスムーズに活動を開始できる準備状態になるためと考えられる。副次的な効果として、音読は過度な緊張状態を緩和する働きもあるという。試験や面接、発表といった場面の前に音読をすることで、精神的な落ち着きを取り戻した本来の力を発揮しやすくなる可能性がある。
第3章:読み聞かせが育む親子の絆と「こころの脳」
黙読、音読と並ぶもう一つの重要な読書スタイルが、親などが子どもに絵本などを読んであげる「読み聞かせ」である。
この読み聞かせが、単なる言語能力の発達促進にとどまらず、親子の情緒的なつながりや子どもの社会性の発達に、極めて大きな影響を与えている。
NIRSを用いて読み聞かせ中の親の脳活動を計測したら、予想された言語野の活動以上に、他者の気持ちを推し量ったり、場の空気を読んだりする機能に関わる「こころの脳」である背内側前頭前野が最も強く活性化していた。単に文字を追うだけでなく、子どもの表情や反応を注意深く観察して、物語を通して子どもとの心の交流を深める状態を反映している。
聞いている子どもの脳では、大脳皮質の言語野や聴覚野の活動は比較的穏やかであるのに対して、喜び、不安、興奮といった情動や感情の処理に深く関わる脳の深部領域である辺縁系が非常に強く反応していた。子どもが物語の世界に感情移入し、心を揺さぶられている状態を示している。
この効果は毎日続けるのが理想的だが、忙しい家庭でも「1回10分、週3日」程度から始めるだけでも十分に期待できるという。
読み聞かせは、アニメなどの映像コンテンツを親子で一緒に視聴する場合とは異なり、親から子へ、子から親へと情報と感情が相互に伝達される、より密度の高いコミュニケーションであり、共感と絆を深める上で重要であると考察されている。

第4章・第5章:スマートフォンの恐怖 – 脳活動抑制と発達阻害のリスク
読書の効用を強調する一方で、現代生活に不可欠となったスマフォやタブレット端末が脳に及ぼす負の影響について、強い警鐘を鳴らしている。著者が開発に関わった任天堂の「脳トレ」の開発過程において、小さな画面で映像やゲームを見ると、大きな画面で見る場合に比べて脳活動、特に思考を司る前頭前野の活動が著しく低下する現象が発見された。
その後の研究で動画を視聴したり、多くのゲームをプレイしている最中の脳活動は、何もせずにぼんやりしている安静時よりもさらに低いレベルにまで「抑制」されるの確認されている。この状態は、身体がリラックスして気持ち良いと感じるマッサージを受けている際の脳活動パターンと類似して、脳が活発に思考している状態とは正反対である。
この脳活動の抑制は、スマホを使って比較的長いメール文章を作成したり、英単語などの意味を調べたりなど、前頭前野はほとんど活性化しないのが示された。紙に手書きで文章を書いたり、紙の辞書を引いて単語を調べたりする場合と比較すると、その差は歴然として、脳活動レベルだけでなく記憶の定着度にも、スマホで調べた場合は一つも思い出せなかったという結果となった。
情報へのアクセス効率は高いものの、脳を十分に活用しないため、学んだ内容が頭に残りにくい。またスマートフォンは脳が疲れにくいため、長時間画面を見続けるのが可能になり、依存を引き起こす一因ともなっている。
そのメカニズムの一つとして、「ながら勉強」に伴う「スイッチング」の問題が挙げられる。多くの中学生が勉強中にスマートフォンを使い、音楽を聴くだけでなく、メッセージのやり取り、動画視聴、ゲームまで行っている実態が明らかにされた。複数のアプリを頻繁に切り替えながら使用する場合、注意が絶えず中断され、一つの課題に深く集中することができない。
これらの現象の根底にある最も憂慮すべきは、スマートフォンでインターネットに長時間接続する習慣を持つ子どもたちの脳をMRIで3年間追跡調査した研究結果を提示している。ネット利用時間が長い子どもたちは、全く利用しない子どもたちと比較して、思考、学習、感情制御などに関わる重要な脳領域において、神経細胞が集まる灰白質の体積増加が見られず、神経線維が集まる白質の発達も停止している、「脳の発達が止まってしまっている」のが明らかになった。
これは脳の物理的な成長そのものを阻害している可能性を強く示唆するものである。
第6章・終章:脱スマホ依存とAI時代の読書の意義
これらの深刻なリスクを踏まえ、特に子どもたちの脳を守るために、社会全体でスマートフォンやタブレット端末との付き合い方を見直す必要性を唱える。
リスクを知らないまま、あるいは軽視したまま、これらの機器を無制限に使用し続けてしまうのに危機意識を持っている。
家庭においては、親自身が手本を示すことが不可欠である。親のスマートフォン使用時間が長い家庭ほど、子どもの使用時間も長くなる傾向があるため、親子で「スマホデトックス」に取り組み、特に食事中や親子だけの時間など、コミュニケーションを大切にすべき場面ではスマートフォンを遠ざけるのを推奨している。
教育現場におけるデジタル機器の活用に対しても、著者は慎重な姿勢を示している。
個別のドリル学習や調べ物などでタブレット多用する学校では、生徒の学力が低下する傾向が見られるのを指摘。かつて視聴覚教育が期待ほどの効果を上げずに廃れた歴史を繰り返し、安易なデジタル化が教育の本質を見失わせる危険性を警告している。むしろ音読や手書き、反復計算といった、脳を確実に使う伝統的な教育方法(「読み・書き・計算」)の価値を再評価して、ICTと効果的に組み合わせる道を模索すべきだと提案している。
急速に進化するAI人工知能時代における読書の意義について考察している。AIは情報検索や文章生成において強力なツールとなり得るが、その性能を最大限に引き出し、出力された情報を適切に評価・活用するためには、人間側に的確な問いを立て、情報を批判的に吟味し、応用する「知恵」が不可欠となっている。
読書は受動的な情報摂取に陥りやすいインターネットや動画視聴とは異なり、著者との対話、自己との対話を通じて、能動的に情報を処理して、思考を深め、物事の本質を理解する力を養なう。言語や記号を用いて抽象的な思考を行い、多様な想像を膨らませる能力は、人間に固有の力であり、読書はこの能力を鍛え、維持するための最良の方法である。情報が溢れて効率性が重視される現代だからこそ、時間をかけて深く思考して内面を豊かにする読書の価値は高まっている。
脳の健康を維持しで潜在能力を最大限に引き出すために、デジタルデバイスへの依存を見直し読書というシンプルながらも奥深い活動を日常生活に取り戻すことの重要性を、科学的知見に基づいて訴えかけている。
スマホと子どもの脳の深刻な関係 「学力が大きく低下する」驚きの結果 | PHPオンライン|PHP研究所
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