2018年4月21日 (土)

五幕九景ドラマ『ネールの塔』アレクサンドル・デュマ

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ネールの塔にまつわる歴史は次のようなものでした。中世の物語、特にネールの塔の伝説的な物語は当時流行であった。史実では、女王マルグリット・ド・ブルゴーニュ(1290-1315)と義妹のブランシュは、それぞれフィリップ・ドルネとゴーティエ・ドルネという兄弟を愛人にし、モービュィッソンの修道院で逢い引きをしていた。

1314年、四人は密告されてルイ強情王と呼ばれたLouis Xの命令で全員逮捕された。一人の若者は尋問によって自白(しかし、裁判の一切が秘密であったために、すべて憶測の域を出ない)し、拷問の果てに死んだ。1315年4月のことであった。

1322年、女王は、伝説の語るところでは、1315年4月30日王の命令によりシャトー・ガイヤールで絞殺されて死んだ。ブランシュは1322年解き放たれ、僧籍に入り、モービュイッソンの修道院に赴いて翌年そこで死んだ。この姦通を手引きした端役たちは死刑か、または逃亡した。さらに二番目の義妹ジャンヌは一旦告発されたが、身の潔白を証明することに成功した。これがこの事件にたった2頁しか割いていない同時代人のド・ナソジの『年代記』の継承者が教えてくれるすべてである。

ネールの塔がフィリップ美男王の嫁たちの放蕩三昧(ほうとうざんまい)の本山であり、一夜限りの愛人の死体を翌朝セーヌ川に投げ落とさせたという、これといった根拠もない一つの伝説が生まれたのはかなり古いことである。これらの情夫のうちビュリダンなる人物が問題である。事実、ビュリダンという人物はどこにも見当たらないうえに、さらにもっと可能性が薄いのはパリ大学の総長であった哲学者ジャン・ビュリダン(1290-1358頃)がマルグリット・ド・ブルゴーニュの愛人であったということである。

様々な伝説がジャンヌ・ド.ブルゴーニュあるいはマルグリット・ド・ブルゴーニュとの関係を彼に負わせ、その二人のどちらかが(ヴィヨンが書いているように)彼を袋に入れてセーヌ川に投げ入れ、そのために死んだかどうかは様々な異本がある。ブランドームはその『艶婦列伝』のなかで有罪の女王のことには触れることなく、ネールの塔における王家の血みどろの乱痴気騒ぎの伝統について言及している。

 
これを題材にしてフレデリック・ガイヤルデという若者が脚本を書きました。着想はよかったが、劇場に上げるまでではなかった原案をロマン主義演劇の傑作に仕上げたのがアレクサンドル・デュマでした。熱狂をもって受け入れられた『ネールの塔』はその後、著作権を巡るガイヤルデによる執拗な訴訟が作者2人の死後まで続く因縁の作品でもあったのです。『ネールの塔』に付けた解説では、この問題を詳細に説明しています。お楽しみ下さい。

https://bookmeter.com/books/11613454

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アレクサンドル・デュマ(Alexandre Dumas, 1802年7月24日 - 1870年12月5日)は、フランスの劇作家・小説家。『椿姫』を書いた息子と区別するために、「父」を意味する père を付して大デュマ(Dumas, père)と呼ぶ。 1802年7月24日に父トマ=アレクサンドル・デュマ将軍と母マリー=ルイーズ=エリザベート・ラブーレの子として北フランスのエーヌ県ヴィレル・コトレに生まれる。父デュマは食い詰め貴族の父がサント・ドミンゴ島の黒人との間に作った混血児である。勇猛果敢な軍人であったため「黒い悪魔 Le diable noir」とあだ名された。 デュマ父はデュマ将軍の死後、貧しい生活を余儀なくされ、まともな学校教育を受けることが出来なかった。15歳で公証人役場で見習いとして働きはじめるが、17歳のときに『ハムレット』の劇を見て感激し、パリに上京し、父の友人の紹介で、オルレアン公爵(後のフランス国王、ルイ・フィリップ)家の秘書室に勤めることになった。デュマは文学や歴史の勉強に励み、1829年、戯曲『アンリ三世とその宮廷』の成功によって一躍劇作家として名をあげ、自身の不倫体験をもとにした現代劇『アントニー』や『ネールの塔』など次々と新作を発表し、たちまちのうちに売れっ子劇作家となった。更に新聞小説作家として『三銃士』『モンテ・クリスト伯』『ジョセフ・バルサモ』『王妃の首飾り』など世界中で愛読される小説家になった。

2018年4月17日 (火)

『心は燃える』ル・クレジオ

表題作「心は燃える」は幸福な幼年時代をメキシコ で過ごした少女が、フランスで転落していく物語。

「山が燃えているのは誰でもわかる。では、心が燃えるのは誰が分かるのか」

「時の経つのは早いものだ。人は苦しみ、そのせいで死ぬかもしれないと思い、さまざまなことを口にする。だが何年かすれば、それはもうただの思い出に過ぎない。」(「心は燃える」)

「何もかもが貝なのよ、トゥパ。世界はひとつの貝で、空はそれよりもっと大きな貝。人間もみんな貝。女のお腹も貝で、そのなかにはすべての人間が宿っているの」(「南の風」)

巻末篇「宝物殿」はペトラの遺跡を舞台に、冒険家ブルクハルトと現地の少年サマウェインのふたり語り手が配されている。ノ ーベル文学賞作家による、圧倒的な短篇小説集。A0bba40d553c4e8eb3fff9ec6248f3a4

「心は燃える」 ル・クレジオ,J.M.G【著】〈 Le Clezio,Jean‐Marie Gustave〉/中地 義和/鈴木 雅生【訳】
【内容目次】
心は燃える
冒険を探す
孤独という名のホテル
三つの冒険
カリマ
南の風
宝物殿
各篇解題
訳者あとがき

J・M・G・ル・クレジオ(Jean-Marie Gustave Le Clezio)
1940年、南仏ニース生まれ。1963年のデビュー作『調書』でルノドー賞を受賞。インディオの文化・神話研究など、文明の周縁に対する興味を深めていく。主な小説に、『大洪水』(1966)、『海を見たことがなかった少年』(1978)、『砂漠』(1980)、『黄金探索者』(1985)、『隔離の島』(1995)、『嵐』(2014)など、評論・エッセイに、『物質的恍惚』(1967)、『地上の見知らぬ少年』(1978)、『ロドリゲス島への旅』(1986)、『ル・クレジオ、映画を語る』(2007)などがある。2008年、ノーベル文学賞受賞。
http://sakuhinsha.com/oversea/26429.html

2018年4月13日 (金)

聖徳太子の密使 挿絵比較

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文庫のほかにハードカバー単行本を買って、挿絵の印刷を比べてみた。
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この扉絵がカラーで、他は本文挿絵はモノクロ印刷であった。

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2018年4月12日 (木)

西遊記 ハードカバー単行本

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新聞連載の挿絵がキレイに全話印刷されている。
ほとんど絵物語の世界が楽しめる。

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2018年4月11日 (水)

西遊記 平岩弓枝

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西遊記 
毎日新聞連載小説
平岩弓枝 蓬田やすひろ画

時は唐代、太宗の御代のこと。一人の高僧が、取経のために天竺へと旅立った。その名は玄奘三蔵。親世音菩薩は、三歳が無事に天竺へ着けるよう、ゆえあって天界を追われたものたちにいずれ来る三蔵と共に天竺へ参るよう言い渡す。師弟の愛、仲間との絆、旅を通じて成長していく姿を余すところなく描く、いままでで一番美しい「西遊記」。
蓬田やすひろさんの挿絵や挿画も素晴らしい。

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2018年4月 9日 (月)

『聖徳太子の密使』平岩弓枝

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聖徳太子(厩戸王子)と海神の娘との間に生まれた王女「綿津見珠光王女(わたつみのたまひかるのひめみこ)」。日本の文化を発展させるために各国の文化を見聞きする密命を受けて、三匹の猫と一頭の馬をお供に難波津から天の鳥舟(あまのとりふね)に乗って冒険するファンタジー小説。
お供する三匹の猫と一頭の馬たち。
猫の一匹目は純白の毛並みを持つ白猫で北斗という。生まれた時から厩戸王子のお傍にいて、王子の読まれる万巻の書をすべて記憶してる博学の知恵猫。天帝を守る七つ星にして、北天をめぐる七星の位置で季節の到来を告げる北斗星、智と勇を持つ、厩戸王子の愛刀、七星剣を与えられて活躍する。
次の猫は三毛猫で紅玉と緑玉と黄玉の三つ珠の首輪をしているオリオン。性格は天衣無縫な優しさで人の心を魅き、当意即妙に機転がきく三匹の中で一番おしゃれな猫。三つの珠は光の当たり具合で虹色に変化する。オリオンは厩戸王子より三つ星の首輪を持っているので、大王家に伝わる天沼矛(あめのぬぼこ)を授かる。
最後は本物の虎そっくりな毛並みが勇ましい顔立ちをした虎猫スバル。腕自慢で猫には惜しい武勇の持ち主。性格は一本気で、少々短気で情にもろい。小ぶりの銀の弓を厩戸王子から授るが矢がない。王子曰く「矢はそなた自身が持って居る。いざという時、この弓を高くかかげよ。屋はおのずから走りて敵を倒すと思え」。
三匹とも猫の姿のままでは、王女の従者として何かと不都合。厩戸王子が蓮の一枝を使って術をかけ、十二、三歳の少年の姿にしてもらう。顔は猫のままで発する声も猫で、住吉の大伸の力で人の顔と言葉を授かりこれで旅の支度は整う。
珠光王女の愛馬「青龍」は百済の国から献上された全身青毛の駒で、物語の過程で実は本物の龍だと分かる。
父親から母親が去る際に残した、九つの乳白色の珠が連なる「龍の珠の連」と倭国から遣わす正使である旨を記載した書状と白銀五百枚を持ち、三匹の猫を従者として、王女は珠光王子として青竜にまたがり飛鳥の地を旅立つ。
住吉大社を経て四天王寺を参り、塩椎翁(しおつきのおきな)と塩椎姥(しおつちのおうな)から天の鳥舟を受け取り、操船を習って食料・水・備品を積み込み、大海原へ漕ぎ出していく。舟が行き着く先々で魔物と遭遇して退治していく。
一行の行く手に立ちはだかるのは、怪蛇、土蜘蛛、魔神、魔女、謎の仙人といった妖怪変化、魑魅魍魎。数多の危難を乗り越えて、遥か西の国に辿り着いた王女を待っていたのは……。血湧き肉躍る興奮と感動の冒険絵巻。
http://www.shinchosha.co.jp/sp/book/124118/

『聖徳太子の密使』もくじ
厩戸王子 ひそかに使を遠つ国々へ向けて旅立たせ給う
珠光王子と三匹の御供猫 流求国にて掖久人を救う
流求国、東の浜に怪蛇あり
珠光王子 林邑国の大難に出会う
魔女ビンティと三匹の血戦
六角島に住む六角仙人の正体
鮫人国は女七、男三 苦悩する黄珠王
此世の楽園、紫金国に女怪の呪縛を解く
師子国王シンラ 大暗黒天の呪を解く
ビジャ王子 父王の仇を討って師子国王となる
天の鳥舟は紅の海に入り、老人に出会う
睡蓮は海をつなぎ、伝説は心を結ぶ

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綿津見珠光王女が珠光王子として諸国を巡る決意したわけがあった。
推古天皇の御世、十二月一日の夜半過ぎ、突如天空に赤気(せっき)が現れた。高貴な女性が肩に沿わせる領巾(ひれ)のように、その赤気は漆黒の天を揺らめいていた。推古天皇の甥で彼女の摂政をしていた厩戸王子は、赤気の正体と禍福いずれの判断を下すべきか、百済出身の天文博士に諮問する。しかし天文博士は赤気についての十分な知識を持っていなかった。

厩戸王子は考える。倭国は暦法や算術など百済や唐から学ぶに完璧な国ではない。学問だけでなく人々の心のより所や政治に必要なもの。和を尊ぶのに重要なのは何か、諸問題を解決するのに百済と唐にだけ頼ってはならない。百済や唐のさらに向こう、大海のはるか彼方の外国(とつくに)に、秀れた知識があるのではないか…。

白羽の矢が立ったのが珠光王女で、彼女は綿津見珠光王女と名が示す、海神(わたつみ)の娘を母に持つ王女。厩戸王子は海にゆかりの深い珠光王女ならば、海神の守護を受けて旅を成功させて、無事に知識・智慧という名の宝を倭国にもたらしてくれると期待した。赤気の謎を解く為に、父の求めるものを探し出す為に、難波津から天の鳥舟に乗船して出航する。

珠光王子と北斗・オリオン・スバルのお供猫一行の航海ルートは倭国の南西方向で、流求国や林邑国、師子国と、現在の沖縄、ベトナム、スリランカ辺りと推測できる国々もあれば、鮫人(こうじん)国や紫金国のように、伝説を基にした作者の創作に属する国々も登場する。
鮫人は中国などで語られる想像上の人種で、人魚のような姿で南海に住み、泣くとその涙が宝石になるという伝え。ラフカディオ・ハーンが『鮫人の恩返し The Gratitude of the Samebito』という作品を残している。

それらの国々に上陸すると、妖怪や魔物に苦しめられている住人がいて、困っている人々を見捨てて置けない王子たちが、化け物退治をしながら、その国の風俗やものの考え方を学んでいく。妖怪や魔物を調伏するのに、王子と猫達が想像を絶するほどの死闘するわけでない、心温まるファンタジー。

『聖徳太子の密使』は「密使」という只ならぬ雰囲気を持つ言葉とは裏腹に、厩戸王子の国造りにかける情熱を受けとめた珠光王子が、正直に爽やかに三匹の猫を思いやりながら成長していく、優しさに満ちた物語となっている。装丁も素晴らしく、挿画は蓬田やすひろ。

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2018年4月 4日 (水)

地底の歌 平林たい子

『地底の歌』平林たい子の長編小説、これを原作に1956年に制作された日本映画。日活製作。平林たい子は「朝日新聞」1948年10月から12月まで、やくざの世界を描いた連載した。「地底の歌」はやくざの運命が、牢屋(赤い着物)か棺桶(白い着物)という意味。
1963年にこの原作で鈴木清順が「関東無宿」として映画化した。8e3379b9ae1f445cbd237532327e6ae8


2018年4月 2日 (月)

ル・クレジオが仏難民政策を再び批判

ル・クレジオが4月1日付日曜週刊紙ジュルナル・デュ・ディマンシュ紙上のインタヴューで、再びマクロンの難民政策を批判。

1月にロプス(L'Obs)誌にル・クレジオが寄せたトリビューンで「耐え難い人間性の否定」と糾弾したのに対して、マクロンは「知識人たちの"偽善的好意 faux bons sentiments"」と揶揄するコメントを出している。カレーなど現地での難民/移動民へのフランス内務省指示による非人道的な冷遇は改善の兆しがない。ル・クレジオは「マクロンどの、Améliorez-vous!」と呼びかける。

http://webronza.asahi.com/politics/articles/2018012900003.html

****(JDD紙4月1日号より)****
JDD ー あなたは2018年1月ロプス(L’Obs)誌上の論壇でエマニュエル・マクロンの避難民に関する政策を激しく非難しました。
ル・クレジオ「私はエマニュエル・マクロンの政敵ではないし、そのロプス誌の(マクロンの顔を鉄条網で包んだ)表紙にはショックを受けた。私は避難民の問題に関する自分の意見を表明したかっただけで、(党派や運動の)スポークスマンをしたかったわけではない。私は今でも内務省の指令による避難民の取り扱い方に憤激している。それは毅然とした方策であることをうたっているが、現地では毅然をはるかに通り越した強硬策になっている。彼らは無防備な人々に対して手酷い扱いをし続けている。国境を閉ざすか開くかは、ひとつの問題として議論の余地があるが、ひとたびこの人々がフランスの地にいるかぎり、彼らにひどい処遇を課すことは容認できない。私は国境の開放に賛成する。私は理想主義的にすぎるのか? 世界中のいたるところで、私たちは恐怖に支配されることに甘んじている。バラク・オバマは天使の慈愛に満ちたような大統領ではではなかった。不法移民の強制追放の件数が最も多かったのは、オバマ在任中であった。私はエマニュエル・マクロンが大統領選挙でマリーヌ・ル・ペンを退けたことには感謝しているが、マクロンはもっと不遇な状態にある人々のことを考慮に入れるべきだ。私はその大統領の役目においてエマニュエル・マクロンに失望はしていないが、彼には修正しなければならないことがたくさんある。マクロンさん、もっと良くおなりなさい!(Améliorez-vous, monsieur Macron !)」
JDD ー エマニュエル・マクロンは避難民に対する知識人たちの「偽善的好意」という言葉で語っていますが。
ル・クレジオ「私は自分のナイーヴさを指摘されることには慣れているし、私は子供の時からナイーヴな人間扱いされてきた。私はモーリシャス島的環境で育てられたし、ニースにあっても私は乞食に食べ物を運んでやるのはごく当然のことだと思っていたが、学校仲間たちは乞食に石を投げつけていた。私は植民地の自由も擁護していたのだから、私は群れの中にはいない習慣があったということだ。私はナイーヴではない。私は単に物ごとを違うように見ているだけだ。私は政治家よりも芸術家を好む。しかし私は論戦から逃げたりしないし、しっかりと自分の立場を守る。私の家系的な過去、それはブルターニュとモーリシャスに起源をもつもので、その血は私に分配/共有を優先するよう私を導いている。だから、必要とあらば、私は避難民の冷遇に抗議するトリビューンを新たに書くことになろう。(JDD紙4月1日号部分訳)

ル・クレジオ
Le Clézio, Jean-Marie Gustave
フランスの小説家。ナイジェリアに勤務するイギリス人の医師とフランス人の母のもとに生まれ,ニースで育ち,同地の文科大学で学んだのち,イギリスのブリストル大学に留学。第一作『調書』 Le Procès-verbal (1963) によってルノドー賞を受け,ヌーボー・ロマンの陣営に加わった。ことばによって現実を模索するための唯一の手段として,エクリチュールのもつ意義を強調。
短編集『発熱』La Fièvre(1965)『大洪水』Le Déluge(1966)『戦争』La Guerre(1970)『黄金探索者』Le chercheur d'or(1985)など,ほかにエッセー『物質的恍惚』L'Extase matérielle(1967)『悪魔祓い』 Haï(1971)など。2008年ノーベル文学賞受賞。

2018年3月30日 (金)

『小さな手袋 』小沼 丹(講談社文芸文庫)

日々のささやかな移ろいの中で、眼にした草花、小鳥、樹木、そして井伏鱒二、木山捷平、庄野潤三、西条八十、チェホフら親しんだ先輩、知己たちについてのこの上ない鮮やかな素描。端正、精妙な、香り高い文章で綴られた自然と人をめぐる、比類なく優しい独得のユーモアに満ちた秀抜なエッセイ。

「僕は電車でたつぷり一時間は掛る遠い町の一軒のパン屋を想ひ浮べた。それは多分、清潔で明るい店で、パンも旨い筈である。 そのパン屋の主人は、仕事が終るとやつこなる店に憩ひ、ときには釣に出掛ける。来月は同窓会に出るのを愉しみにしてゐる。 それから、孫のやうな小さな女の子と、二つしか知らない童謡を歌ふのかもしれない。」

「ああ、楽しい……」のはずのところ、「ああ、悲しい……」になっていたというのだから、とんでもないこと。 編輯長や担当者に詰問しても結局は埒が明かず、その教科書を一年だけ使ったものの、
教場で、「悲しい」の箇所は「楽しい」と訂正する、と云うと学生がげらげら笑った。仕方が無いから、電話の経緯を話したら、更にげらげら笑った。僕はたいへんつまらなかった。

その教科書の収入で酒を飲み、酔っぱらって腕時計をなくし、そのまま時計を持たずに過ごしていたら、最後、学生に時間を訊いて、じゃ止めよう、と廊下に出て時計を見ると大抵十分から十五分さばを読まれている。


最初はテレビなど白眼視していた著者。酒の席でテレビを買った知人に、あなたもどうですかとすすめられ、はじめは知人を笑っていたはずなのに、翌日家にテレビが届いてしまうのだった。

「どうしてそんなことになったのか、さっぱり判らない」と腹を立てる著者でしたが、そのうち自分も知人にテレビをすすめるようになる。
「慎重にうちじゅうで相談」してテレビを買うことにしたというので、知り合いの電気屋に早速テレビを届けさせた。
それから二、三日して庄野から葉書が来た。夕方になっても来ないので、子供と一緒に――今日は日曜だから駄目なのかもしれない、と半ば諦めていた所へ届いた。
何でもその后で小さなお嬢さんが、笑うまいとしても自然に笑いそうになった。
僕はたいへん愉快な気がした。 この一事を見ても、彼の家庭が洵に円満であることがわかる。


小沼 丹 おぬま たん
1918年(大正7年)9 月9日 - 1996年(平成8年)11月8日)
日本の小説家、英文学者。本名は小沼 救。日本芸術院会員。『村のエトランジェ』『白孔雀のいるホテル』『不思議なソオダ水』等の浮世離れした短編群は絶妙。ミステリ短編集に「黒いハンカチ」がある。 「大寺さんもの」など、日常を題材とした小説のほか、随筆の名手としても知られる。
早稲田大学では文学部の教授として教鞭を執った。

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2018年3月18日 (日)

『小沼丹作品集』全5巻(小沢書店、1979.12~1980.9)

第1巻 1979.12.10
 
村のエトランジエ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
紅い花‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
汽船―ミス・ダニエルズの追想‥‥‥‥36
バルセロナの書盗‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥52
白い機影‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥77
登仙譚‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 115
ニコデモ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 135
村のエトランジエ‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 151
白孔雀のゐるホテル‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 185
気鬱な旅行‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 187
白孔雀のゐるホテル‥‥‥‥‥‥‥‥ 246
帽子‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 290
ガブリエル・デンベイ‥‥‥‥‥‥‥ 309
ペテルブルグの漂民‥‥‥‥‥‥‥‥ 338
エヂプトの涙壷‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 371
エヂプトの涙壷‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 373
断崖‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 392
砂丘‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 411
*解題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 434
 

第2巻 1980.2.15
 
不思議なソオダ水‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
不思議なソオダ水‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
マダムの階段‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥37
赤い帽子‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥64
木犀‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥81
遠い顔‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 104
女雛‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 120
乾杯‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 128
二人の男‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 150
不可侵条約‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 173
焼餅やきの幽霊‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 194
黒いハンカチ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 217
指輪‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 219
眼鏡‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 236
黒いハンカチ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 252
蛇‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 268
十二号‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 284
靴‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 302
スクエア・ダンス‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 318
赤い自転車‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 335
手袋‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 351
シルク・ハツト‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 367
時計‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 384
犬‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 401
*解題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 419
 

第3巻 1980.4.20
 
懐中時計‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
黒と白の猫‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
タロオ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36
蝉の抜殻‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥54
揺り椅子‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥81
影絵‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥99
自動車旅行‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 123
懐中時計‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 139
ギリシヤの皿‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 162
銀色の鈴‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 188
小径‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 191
猫柳‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 218
山のある風景‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 235
古い編上靴‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 266
落葉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 316
昔の仲間‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 334
銀色の鈴‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 362
*解題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 387
 

第4巻 1980.6.30
 
更紗の絵‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
椋鳥日記‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 233
ウエスト・エンド・レイン‥‥‥‥‥ 235
クラブ・アツプルの花‥‥‥‥‥‥‥ 256
テムズの灯‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 277
アダムとカルメン‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 299
移民局と歯医者‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 319
老人の家‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 339
緑色のバス‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 366
落葉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 386
*解題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 408
 

第5巻 1980.9.20
 
藁屋根‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 7
藁屋根‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 9
眼鏡‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥34
竹の会‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥59
沈丁花‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 105
キユウタイ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 125
ザンクト・アントン‥‥‥‥‥‥‥‥ 141
湖畔の町‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 150
ラグビイの先生‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 167
木菟燈篭‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 183
四十雀‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 185
槿花‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 199
エツグ・カツプ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 216
鳥打帽‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 225
ドビン嬢‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 244
枯葉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 259
木菟燈篭‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 273
「一番」‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 293
入院‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 314
胡桃‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 328
花束‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 347
未刊作品
瘤‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 363
浄徳寺さんの車‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 379
カンチク先生‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 393
珍木‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 412
*解題‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 42401d90ad3b2d74ec7b9ff640b221f5d64


続きを読む "『小沼丹作品集』全5巻(小沢書店、1979.12~1980.9)" »

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羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
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22カードの意味

  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

オンライン状態

ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。