2017年6月17日 (土)

『詩人のナプキン』堀口大学

ときには膝を打つほど面白く、ときには哀しいまでに美しく、またときには身も凍るほど残酷に…。人生をあざやかな形で描き出したフランス短篇小説の名手たち。詩人・堀口大学がこよなく愛し訳したアポリネールやラディゲ、アナトール・フランスなどの作品を集めたエスプリの香り高い一冊。

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《収録作品》
オノレ・シュブラック滅形(ギイヨオム・アポリネエル)
アムステルダムの水夫(ギイヨオム・アポリネエル)
詩人のナプキン(ギイヨオム・アポリネエル)
聖母の曲芸師(アナトオル・フランス)
颶風(クロオド・ファレエル)
冷たい恋人(クロオド・ファレエル)
萎れた手(クロオド・ファレエル)
五寸釘(メデロ・エ・アブルケルク)
エステル(フィッシェ兄弟)
三日月(アンリイ・バルビュス)
嫉妬(フレデリック・ブウテ)
幼童殺戮(モオリス・メエテルリンク)
青髯の結婚(アンリイ・ド・レニエ)
水いろの目(ルミ・ド・グウルモン)
ドン・ファンの秘密(ルミ・ド・グウルモン)
遊行僧の話(マルセル・シュオブ)
モネルの言葉(マルセル・シュオブ)
ドニイズ(レイモン・ラディゲ)
花売り娘(レイモン・ラディゲ)
無人島(マルセル・アルナック)
書物と恋愛(ジャック・ド・ラックルテエル)
いまわの夢(アルベルト・インスゥア)
懶惰の賦(ジョセフ・ケッセル)
嶮しき快癒(ジャン・ポオラン)

”僕等が法を無視した以上、僕等は法より偉大であらねばならぬのだ。彼のプロメッテエを描くために、ファラシオスは罪のない一人の男を拷問にかけさせた、しかし彼がこうして描いたプロメッテエは傑作であった、ために後代は彼の行為を許したのである。しかるに彼の描いた画が、もしも全ギリシャの賞賛を買わなかった場合には、ファラシオスは単に一個の殺人者であったのである。  
クロオド・ファレエル「萎れた手」より”

 

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2017年6月13日 (火)

週刊朝日2017年6/23号の中吊り

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2017年6/23号 (06月13日発売) の目次
 スクープ! 前川喜平前文科事務次官が新証言
 “お友達”ファースト
 安倍官邸が文科省に
 命じた3つの“謀略”
 (1)和泉補佐官 首相肝いり明治日本の産業革命遺産に反対した文化審議会委員を「外せ」
 (2)杉田官房副長官 文化功労者選考分科会から安保法制反対の学者を「代えろ」
 (3)杉田官房副長官「外務省、内閣府OBの天下り資料はいらない」
 菅野完 緊急寄稿 「籠池ファミリーを消費する在阪メディアの大罪」

 ワイド特集
 負けに不思議の
 負けなし
 連敗ワースト記録巨人高橋監督が批判されない理由/“セカンドレイプ”
 詩織さん「警察、病院は助けてくれなかった」/イケメン俳優小出恵介の
 不祥事 ドラマ・映画・CM 損害は数億円規模か/「たたら侍」橋爪遼容
 疑者逮捕で打ち切りも再上映へ/近く婚約 眞子さまブータン訪問同行記

 滝沢秀明
 インタビュー 大仁田厚さんの追っかけをするやんちゃな子どもでした

 SAPIX、早稲田アカデミー、浜学園… 合格実績と指導方針でわかる塾の実力

 全国2037高校 有名大学現役進学者数総覧
 国公立大・東大・早慶
 現役進学率トップ10

 「33歳女の壁」の正体
 「33で結婚、34で妊娠、35までに出産」に間に合わせたい女の心情

 即効性アリ! ドラッグストアで買える! 仕事に効く漢方

 がんや胃潰瘍のサインかも… “隠れ貧血”をあなどるな!!

 あなたの職場にもきっといる
 恐怖のバブルおじさん
 「クルマ買いなよ。マイホームは?」「若いうちはお金使わなきゃ」
 飲み会、説教が大好き…職場に蔓延する価値観の押しつけ“バブハラ”

 グラビア
 本誌と同じ1922年生まれ
 みんな大好きグリコの「おまけ」
 阿川弘之、北杜夫、檀一雄、野坂昭如、藤沢周平
 娘が語る 父が愛した味
 麻央に見せたい 海老蔵 親子共演
 ●ドン小西のイケてるファッションチェック
 [土屋アンナ]
 ●人生の晩餐
 ●岩合光昭の今週の猫
 ●粋の一品
 ●山藤章二の似顔絵塾

 対談
 林真理子 ゲストコレクション
 篠原ともえ

 司馬遼太郎と宗教(16)
 家康と真宗

 連載
 平成夫婦善哉
 [おさる・山川恵里佳]

 「目キキ」&「耳キキ」

 新・名医の最新治療
 頭頸部がん

 マンガ
 介護ボランティア編
 ヘルプマン!! くさか里樹
 パパはなんだかわからない 山科けいすけ

 コラム
 田原総一朗 ギロン堂
 藤巻健史 虎穴に入らずんばフジマキに聞け
 室井佑月 しがみつく女
 ミッツ・マングローブ アイドルを性せ!
 山田美保子 楽屋の流行りモノ
 カトリーヌあやこ てれてれテレビ
 春風亭一之輔 ああ、それ私よく知ってます。
 帯津良一 貝原益軒 養生訓
 北原みのり ニッポン スッポンポンNEO
 嵐山光三郎 コンセント抜いたか
 東海林さだお あれも食いたい これも食いたい
 丸山茂樹 マルちゃんの ぎりぎりフェアウエー
 東尾 修 ときどきビーンボール
 津田大介 ウェブの見方 紙の味方
 鈴木おさむ 1970年代生まれの団ジュニたちへ

 週刊図書館

 犬ばか猫ばかペットばか
 パズルDE脳力測定[読み方スケルトン]
 お便りクラブ/編集長後記

 ◆今週は増大号のため特別定価です。「山藤章二のブラック・アングル」は休みます

2017年6月12日 (月)

小冊子『熱風』2017年6月号

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特集/坂元裕二 ロング・インタビュー
テレビドラマ「カルテット」で描きたかったこと
「嫌なことをして何かを諦めて生きるよりは、孤独死上等」と言い切る、彼らの姿を肯定したい

連載
第9回  ガラクタWAR(いしいひさいち)
第2回 海を渡った日本のアニメ
私のアニメ40年奮闘記(コルピ・フェデリコ)
――ヴェニス編2
第5回  ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)20年史
世界が、それをゆるさない。(大西健丞)
第11回  グァバよ!(しまおまほ)
――ママ、かぁか、お母さん
第18回  日本人と戦後70年(青木 理)
――[ゲスト]寺島実郎さん

執筆者紹介
ジブリだより / 宮崎駿 新作長編アニメーション映画制作のためのスタッフ(新人)募集 /おしらせ / 編集後記
http://www.ghibli.jp/shuppan/np/

2017年6月10日 (土)

パンクマガジン『Jam』の神話

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SPECTATOR最新号。
特集:パンクマガジン『Jam』の神話
『Jam』は1979年3月から約1年に渡って毎月刊行されていた、自動販売機でしか買うことのできなかったパンクな雑誌です。
ポルノ雑誌の様相を呈しつつも、プロレス、神秘主義、フリーミュージックなどアナーキーで濃厚な記事が掲載され、「伝説のサブカル雑誌」として現在も一部のファンから熱狂的に支持されています。
この過去に類を見ない過激な雑誌は、なぜ、どのようにして生まれたのか? サブカル雑誌の誕生神話に迫ります。
■インタビュー:『Jam』はどんな雑誌だったか?
◇「突き抜けた世界を追求したくて『Jam』を創刊した」
八木眞一郎(元・『X-Magazine』『Jam』編集者)
◇「面白いかどうかが一番大事ですよ。素人なんだから」
高杉弾 (元・『X-Magazine』『Jam』『HEAVEN』編集長)
◇「真之助に「好きなことをしてほしい」と思ってました」
村田惠子(同時通訳者)
◇「『Jam』も『HEAVEN』も「高杉弾の個人誌」だと思います」
近藤十四郎(グラフィックデザイナー)
◇「自動販売機でしか売らない雑誌! なんて面白いんだろう! !」
羽良多平吉(書容設計家)
■寄稿『Jam』について考えた
◇自販機本は僕らの学校だった/文・神崎夢現
◇『Jam』『HEAVEN』編集部の時代/文・金田トメ善裕
◇出版史における自販機雑誌と『Jam』/文・小田光雄
◇WHO'S WHO 人命事典 第3回/文・山崎春美
■『Jam』~『HEAVEN』誕生物語/漫画・伊藤桂司
■なぜなに学習塾 自販機本『Jam』ってなあに?/答える人・ばるぼら
■『Jam』創刊号を完読してみる/文・ばるぼら
■『Jam』面白記事よりぬき/構成・編集部
■再録『Jam』
■総目次『X-Magazine』~『Jam』~『HEAVEN』
■その他のコンテンツ
・連載:北山耕平「雲のごとくリアルに 飛雲編3」(暫定版)

2017年6月 4日 (日)

『D.H.ロレンス幻視譚集』

David Herbert Richards Lawrence
SF、幽霊譚、 不条理譚に詩――様々に綴られた理想と自由を求める人々の物語。解放感とユーモア、圧倒的自然描写など、ロレンスの知られざる魅力溢れる傑作集。Img_9962
【人生の夢】水晶屈で昼寝しているうちに、時間が流れて気がつくと遠い未来世界にいる。オーガニックで平和なのだが、全員眠っているように穏やかだが不気味に過ぎていく。

【喜びの幽霊】幽霊を扱った長い幻想小説だが、主人公と人妻カーロッタの長い年月の「未挿入の交歓」物語とも読める。最後に二人は幽霊を通じて、間接交合し子ができて、夫に感謝される。

【トビウオ】イルカが船と一緒に泳いでいる、神話イメージする場面の描写が印象に残る。太陽と水平線の神秘。「この海の生き物たちが達したような、すいすい進みながら笑いあう繋がりの高みに、どの文明がつれていってくれると言うのか?」

【メルクール山上の神メルクリウス】ドイツ南西部にあるメルクール山には行楽客が押し寄せる。ケーブルカーで山頂に着くと、松の木に覆われた中の小道を行楽客は歩いて、適当な木陰を見つけては腰を下ろす。見晴らしの塔の下には古い石板があり、古神メルクリウスのレリーフが彫られている。やがて松の梢あたりで風がかすかに音をたてはじめ、大きく平らの黒い塊が西の空に頭をもたげている。松の梢の不気味なざわめきに怯えて、人々の意味不明の小さな言葉が飛び交う。人々が小さな駅に押し寄せたときに最初の稲妻が炸裂して、雷鳴がとどろき、巨大な闇に包まれる。
松の枝の多くが折れ裂けて、雹も降り6インチほど積もる。嵐がおさまった後に、見晴らし塔の南面の雹の下に、二人の男の無惨な死体が横たわっているのが発見された。ケーブルカーは動かなかった。嵐のあいだに何かが起きたのだ。


【島を愛した男】島がほしいとと願う男が34歳の時に、楽園建設を計るが、経費過多と雇人の使い込みで経済破綻する。そして二番目の小さい島に移ると、性の自動作用から未亡人の娘の肉体に捕まってしまう。子供ができて財産を譲って、三番目のさらに小さな島に移るのだった。

【もの】理想の人生と暮らしを求めて、アメリカ、パリ、フィレンチェと移っていく夫婦。蒐集した高価な骨董家具類の置き場所と、経済問題に悩まされて、アメリカに戻り、家具への執着が経ち切れず妥協に至る。

●小説は「喜びの幽霊」(約92頁)、「島を愛した男」(約50頁)、「人生の夢」(約42頁。未完)、「トビウオ」(約38頁。未完)、「もの」(約22頁)、「微笑み」(約12頁)、「メルクール山上の神メルクリウス」(約10頁)
●詩は「バヴァリア竜胆」「死の舟」収録。
(平凡社ライブラリー )

D・H・ロレンスは『チャタレイ夫人の恋人』『息子と恋人』『虹』など長編があり、刺激的な描写で物議をかもした。長編の他に沢山の短編を書いていている。親交があったオーダス・ハクスリーは語る。“ロレンスは「存在の未知の領域」に対するけた外れの感性をもっていた。この世界に対する尋常ならざる感受性があり、それを通して感得した存在の聖性、世界の神秘を、天才的な文学言語に置き換えた」

2017年5月21日 (日)

『鳥』安房直子

ある町に,耳のお医者さんがいました。
小さな診療所で,来る日も,来る日も人の耳をのぞいていました。
とても, 腕の良いお医者さんでしたから待合室は, いつも満員でした。

遠い村から, 何時間も列車にゆられて通う人もありました。このお医者さんのおかげで,耳の病気がすっかり治ったと言う話は, 数えきれません。
そんなふうで,毎日が,あんまり忙しかったものですから,お医者さんは,このところ,少し, 疲れていました。
「私も,たまに,健康診断しなくちゃいけないな。」
夕方の診療室で,カルテの整理をしながら,お医者さんは,つぶやきました。

いつも,看護婦役をしてくれる奥さんは,ついさっき出かけてしまい,今,お医者さんは,たった一人でした。夏の夕日が,その小さい白い部屋を,赤々と照らしていました。
と不意に, 後ろのカーテンが,しゃらんとゆれて, 甲高い声が響きました。
「せんせ,大急ぎでお願いします! 」
耳のお医者さんは,くるりと回転いすを回しました。カーテンのところに,少女が一人立っていました。片方の耳をおさえて,髪を振り乱し, まるで,地の果てからでも走ってきたように ,あらい息をしていました。
「どうしたの。いったいどこから来たんだね。」
お医者さんは,あっけにとられて訊ねました。
「海から。」 と少女は答えました。
「海から。ほう,バスに乗って?」
「ううん,走って。走ってきたの。」
「ほう。」

お医者さんは,ずり落ちた眼鏡を上げました。それから「まあ,かけなさい。」と,目の前の椅子を示しました。
少女は,真っ青な顔をしていました。
その目は,大きく見開かれ,まるで,毒を飲んでしまった子供のようでした。
「それで ? どうしたの? 」
お医者さんは,手を洗いながら, いつもの調子でたずねました。
すると,少女は自分の右の耳を指して叫びました。
「耳の中に,大変なものがはいってしまったんです。早く取つてください。」
そこで,お医者さんはガーゼやピンセットを取り出しました。そうしている間にも,少女は甲高い声で,早く早くとせきたてます。けれどお医者さんは,落ち着いていました。こんなことは,しょっちゅうでしたもの。

昨日も小さな虫が 生きたまま耳の中に入つたという人が,飛び込んで来て,うるさいうるさいと大騒ぎしたのでした。今日もそれにちがいないと,お医者さんは,思いました。そこでゆったりと椅子に座り
「何が入ったんだね。」とたずねました。すると少女は,とても悲しい顔をして,
「あのね,秘密なんです。」と言いました。お医者さんは,顔をしかめました。
「秘密ってことはないだろ。それじゃ,治せないじゃいか。」
すると少女は,しょんぼりうつむいて,「だから,秘密なんです。秘密があたしたちの耳の中に入ってしまったんです。」
「あたしはね,決して聞いてはいけない秘密を,たった今聞いてしまったんです。だからそれを,おおいそぎで取り出してほしいんです。
今すぐ取り出せば,だいじょうぶなんです。ちょっと前に,コトンと,耳のなかにおちたんだから。
でもね早くしないと,手遅れになります。日が沈んでしまったら,もう,おしまいです。」

お医者さんは目をしばしばさせました。こんな患者は初めてでした。そこでこれはまず,ゆっくり話し合うことだとおもって ,
「で,いったい,どんな秘密を聞いたの。」優しく尋ねました。
すると少女は,ぼそぼそとこう言いました。
「あたしのだいすきな人が,実は,鳥なんだっていう話。魔法にかけられカモメなんだっていう話。」
「ふうん。」とてもみょうな顔つきで,お医者さんはうなずきました。

それから,いすを引き寄せて,少女の顔をのぞきこみました。もっとくわしく聞きたいな,君の話。それから耳をみてあげることにしても,ちっともおそくないと思うよ。

日がすっかり沈むまでには,そうあと三十分はあるからね。なあにそんな秘密のひとかけらぐらい,すぐ取り出せるよ。ぼくは名医なんだから。

少女は素直にうなずくと, こんな話をはじめました。あたしが初めて,あの人と会ったのは,夕暮れの海の,ボートの上でした。あたしは,独りぼっちの女の子で,貸しボートの小屋で働いていました。

小屋の前に一列につながれた 十九隻のボートの一番前に,その時あたしは座ってていました。日が沈んでも戻ってこない,たった一隻のボートを,あたしは待っていました。
けれどこの時,あたしはすっかり待ちくたびれて,うとうと眠りかけていました。とそんなあたしの耳もとで,ぴしゃっと水の跳ねる音がしました。
「すみません。」 
その声で,あたしは,はっと目を開けました。目の前に,ボートに乗った,少年がいました。青いペンキぬりのボート,それは,たしかに,うちの店のものでした。たちまち,あたしは,不機嫌になりました。
「どうしたの? もうとっくに,時間,切れてるんですよ。」
すると少年は,恥ずかしそうに笑って,こう言いました。
「ずっと沖の方まで行ってたものだから。」

小年の目は,不思議な灰色でした。
「いったい,何処まで行ってたの。?」
あたしは半ばあきれた顔つきでたずねました。すると少年は すまして言いました。
「水平線のずっと向こう。ふたご岩のまだむこう。かみなり島のもっと向こう。」
「うそばっかり。」
「うそなもんかい。鯨が潮をふいていたよ。大きな客船がいたよ。」
「ふざけないで,早くボート返してちょうだい。」
すると少年は,立ち上がって,ひょいと,あたしのボートに跳び移り,それから,まるで石けりでもするように,ぴょんぴょんと,十九隻のボートを伝わって岸に行ってしまいました。

最後に「さよなら!」と言いました。少年の乗り捨てたボートには,白い花びらが散っていました。あたしは思わず,それを手に取りました。すると,花びらは,羽に変わっていました。鳥の羽でした。
あたしは,不思議な,夏の夢を見たような気がしました。
その少年が,浜の貧しい小屋に住む海女の息子だと知った時の,あたしの驚きは,たとえようもありませんでした。
その海女は,すっかり年をとっていましたから,海に潜るのはやめて,貝や魚を売り歩いていました。
茶色い肌は,くしゃくしゃで, おちくぼんだ目は,とろんと曇っていました。

そんな年寄りの海女が,あの少年の母親だということが,あたしには,とうてい信じられないほど不思議でした。
けれど,海女は,ある日,ボート小屋へ来て,確かにこう言ったのです。
「こないだは,息子が,迷惑かけて,すまなかったね。」
海女は,笑いました。
ぞくっとするような笑顔でした。
「だけど,もう,ボート遊びは,させないでおくれ。あれは,あたしだけの,大事な息子なんだから。」
けれど少年は,それから毎日ボートに乗りにきました。
あたしの耳もとで「ほんのちょっとだけさ。母さんには,ないしょだよ。」と,ささやいて。やがてあたしは,少年と,友達になりました。
初めはおずおずと,それからだんだん親しく。夕方になると少年はあたしが,ボートを杭に繋ぐのを手伝ってくれました。あたしよりずっと速く,まるで,水のうえに散らばった木の葉をまとめるように。
「これ全部, 僕のボートだったら,すてきだろうな。」と少年は言いました。
「そうしたら,一列に繋いで,先頭のボートを漕いで,沖へ行くんだ。」
「あら,そんなこと,出来るかしら。」
「うん。僕には出来るだろうな。僕の腕は,強いもの。ずっと前には,もっといろんな冒険をしたもの。」
「冒険? どんな?」
あたしは体を乗り出して尋ねました。すると少年は急に,気のぬけたような声で,「もう,忘れたな。」と言いました。それから虚ろな目で,遠くを見つめました。
この人は,いつも,そうなのでした。昔の事は,みんな忘れているのでした。
まるで,忘れ薬を飲まされた王子のように。もっともあたしも,そうでしたけども。
心に残っている,昔の思いでなんて,一つもないのでしたけれど.ボートをしまってから,日が暮れるまでの一時を,二人は,楽しく過ごしました。
貝を並べたり,ほおずきを分け合ったり,花火をしたり。ほの暗いボート小屋のかげで,せんこう花火は,小さく,ちりちりと燃えました。けれど,あたしたちは,もっと広い所で,一緒に遊びたかったのです。

昼の日ざかりに,砂浜や海で,おもいっきり,走ったり泳いだりしたかったのです。があたしたちは,いつも海女の目をおそれていました。
小屋の後ろで,二人の様子をうかがっているかもしれない海女のかげに,何時もおびえていました。
ある時,少年は言いました。
「ねえ,二人で遠くへ行かないか。」
「遠くってどこへ?」
「水平線のずっと向こう,ふたご岩のまだ向こう,かみなり島のまだ向こうさ。」
「だって,母さんは?」あたしは,声をひそめて聞きました。
「あなたの母さんは,いけないって言うでしょ。」少年は,うなずきました。
「うん。母さんは,ぼくたちのこと,怒ってるんだ。おまえは,あの娘といっしょに,どこかに逃げていく気だろうって。だけど,決してそうはさせないよって。母さんは,こわい人なんだよ。魔法を使うんだから。」

あたしは息をのみました。そういえば,あの顔は魔法使いの顔でした。
特に,あの目は繙繩Cの底に,百年も二百年もすんでいる魚の目の,不思議なよどみに似ていました。
「ね,だから,ぼくたち,こっそりにげなけりゃいけない。」
少年は,とても,真剣な顔をしました。
あたしは,胸をドキドキさせながら,うなずきました。
「ねえ,あした,にげよう。」
「あした ! どうして急に。」
「母さんが,海にもぐれっていうんだもの。海の底から,貝をたくさん採つておいでって言うんだもの。僕は, 嫌なんだ。あれは,とっても苦しいから。」
「・・・・」
「僕は,思いっきり広い所へ行きたいんだ。ね,だから,あした逃げよう。
ボートを一隻, あの岩の陰に隠しておいて欲しいな。」
少年はずっとむこうの岩を指さしました。

海に突き出た, 大きな岩の陰に,ボートが一隻, すっぽり隠せるくらいの窪みのあることを,あたしも知っていました。
「あしたの夕方, ボートの上で, 待ってるよ。」
少年は, 灰色の目で笑いました。この時, 後ろで, カサリと音がしました。
黒い影が水のうえに, ゆらっと動いたような気がしました。

あたしは, ぎょっとして振り向きました。が,誰もいませんでした。
ああ,それが,つい昨日の出来事なのです。
なんだかずっと昔みたいな気がするけれど,ほんの昨日の事なのです。
そうして,今日の夕方--ついさっきになります--, 約束どうり, あたしは,あの岩影に急ぎました。

朝のうちに, こっそり隠しておいたボートの上で, あの人が待っているはずなのです。
あの人は,青い海水パンツをはいているでしょうか。大きな麦わら帽子をかぶっているでしょうか。

そして,灰色の目でじっと, あたしを待っているでしょうか・・・・
あたしの胸は,コトコトとおどりました。
これから,素晴らしい冒険が始まるのだと思いました。浜の西日は,大きな黄金の車でした。ぎんぎん音たてて回る, まぶしい光の輪でした。
急げ,急げ。 あたしは,いちもくさんに走りました。まぶしい砂浜から,岩の陰に回ると, 急に, 薄暗くなりました。
あたしのゴム草履が,ぴたぴたと,水を跳ねました。と「ご苦労さん」 突然, しわがれ声がしたのです。
あたしは,ドキリと顔を上げました。

青いボートの上には,少年の代わりに,海女が一人, ひざをかかえて座っていました。あのぞくっとするような笑顔をうかべて。にわかに,あたしは, わなわなと震えました。
うわずった声で, あの人は何処にいるのかと尋ねました。
「うちにいるよ。」
つっけんどんに, 海女は答えました。

「鍵をかけた小屋に閉じ込めてあるよ。だけど, 屋根に小さい穴があるから,逃げてしまうだろうな。もう逃がしてやっても,いいとおもってるんだがね。」
「 屋根の穴ですって ? そんな所から出たら, 危ないわ。」
「 危ないもんかい。あいつには,翼があるんだから。」
あたしは,きょとんと海女を見つめました。すると,海女は,そっくり返って笑いました。

それから,不意に手招きをして,「こっちへおいで。とっておきの秘密を話してあげるから。」と言ったのです。
あたしは, どぎまぎしながら, ボートのへりに腰掛けました。
すると,海女は, こちらへ,にじりよってきて, あたしの耳に,ぴったり口をつけました。
そして,たった一言, こう言いました。
「あいつは, 鳥なんだよ。」
この一言は,鋭いナイフのようになって, あたしの耳の中で踊りました。
すると海女は,ひどく意地悪な目をして,なおもこんな話をしました。
「実は, 魔法をかけられたカモメなのさ。もう, だいぶ前になるけどね,わたしの小屋に,怪我をしたカモメが迷いこんできた。可愛そうだから,
薬をつけて,包帯を巻いて, 毎日食べ物をやっているうちに,わたしゃ,このカモメが,すっかり気に入ってしまった。
なんだか,息子みたいに可愛くなった。怪我が治っても, ずっと,手元に置きたくなった。ところが,ある日, 海から雌のカモメが一羽やってきて,
毎朝, 窓のところで鳴くんだ。その時, 私は鳥の言葉がわかったんだよ。
雌のカモメが,「海へ行こう, 海へ行こう。」って,
呼び掛けているのが,本当にちゃあんと聞こえたのさ。すると,うちの息子は,治りかけた翼を,パタパタさせて飛び立とうとする。
雌のカモメの歌声は, 日に日に高くなった。いくら追っぱらっても,またやって来る。
私は, 雌のカモメが, ただもう憎らしくてたまらなかった。今のあんたほどにね。」

ここで,海女は,あらい息をして,あたしをにらみました。
それから,低い声で,また続けました。
「そのうち,わたしは,いいことを思いついた。魔法を使ってうちのカモメを,人間に変えてしまうことさ。ほんものの, わたしの息子にしてしまうことさ。

わたしは,箪笥の中に, 赤い海草の実を,二つぶしまっておいた。
昔, 海の底で見つけた, とても珍しいものさ。
わたしは,これに, はっはっと息をかけて,カモメ食べさせた。
すると,その効き目の良さといったら !
一つぶ食べただけで, カモメは, 人間の男の子の姿になった。
わたしは,嬉しくて嬉しくて, 残りの一つぶを,どこかに落として仕舞ったのも気がつかない程だった。立派な息子が出来て, なによりだと思った
これから,海に潜ることも,魚を売ることも教えようと思った。
ところが,どうだろう。ほんの一月もたたない内に, 今度はおまえさんが現れて, また,あいつといっしょに遠くへ行こうとする・・・・。
だから,わたしは,もうあきらめたよ。もう,あいつは,海へ追っ払ってやることに決めたよ。だけどね,」
急に,海女は,声を大きくし,はきすてるように言いました。
「あんたが,一緒に行くことは出来ないよ。あいつは,鳥なんだから。」
けれど,あたしは,怯みませんでした。
「それでもいいのよ!
あの人,今は,ちゃんと人間の姿してるんだから。あたしは,それでいいのよ。」
すると,海女はにんまり笑いました。
「ところが,もうすぐ魔法がとけるんだ。この秘密を,誰か一人でも知ったら,その日のうちに,魔法は解けてしまうんだ。
だから,今日,海に日が落ちるまでに,あいつは鳥に戻ってしまうよ。
もっとも,あんたが,今の話を,ケロリと忘れる事が出来るなら別だけどね。
腕のいい,耳のお医者にでも駆け込んで,大急ぎ,秘密を取り出して貰えるなら,別だけどね。」

<耳のお医者・・・・>
この時,あたしの頭に,先生のことが浮かんだのです。
浜の人が,とても立派なお医者様だって言ってました。

それであたし,走ってきたんです。
ね,あなたなら,簡単でしょ。長いピンセット使えば,すぐできるでしょ。
日が沈んでしまったら,もうおしまいなんです。早くしてください。

「なるほど。」
耳のお医者さんは,うなずきました。
自分を頼って駆け込んで来た,この少女の願いを,是非きいてあげたいと思いました。
「それじゃ,ちょっとみてあげよう。」
お医者さんは,貝殻のような少女の耳の中を,のぞきこみました。
それから<はあん>と,うなずきました。確かに耳に奥に,何かが光っているのです。ちょうど,こぶしの花が一輪咲いているような感じでした。
< あれだな,あれが秘密なんだな。> とお医者さんは思いました。

けれど,それは,あんまり奥でした。
どんなに長いピンセットを使っても,届きそうにありません。
「ねえ,早くして,早く,早く。」
少女は,せきたてます。
その声が,変に頭に響いて,お医者さんは,腕が上手く動かなくなりました。

薬の瓶を取り出したものの,それがなんの薬だったか,分からなくなりました。
<今日は調子が悪いな。疲れてるせいだろうか。>
お医者さんは,頭をふりました。と,急に,少女が,大声をあげたのです。
「あっ,鳥だわ。鳥,鳥。」
「鳥?」 お医者さんは,思わず窓へ目を移しました。
窓の外には,ほんの少しの,細長い夕空が見えるだけでした。
「何言ってるんだ。」
すると少女は,目をつぶって,こう言いました。
「あたしの耳の中よ。ほら,海があるわ。砂浜があるわ。砂の上にカモメになったあの人がいるわ。あの鳥を,早くつかまえなけりゃ。」
お医者さんは,駆け寄って,少女の耳の中をもう一度覗きました。
そして「ほう。」と,大きな声を上げました。

本当なのです。少女の耳の中には,確かに海があるのでした。真っ青な夏の海と,砂浜とが,ちょうど,小人の国の風景のように納まっているのです。
そして,その砂浜の上に,白い花が一輪 ---
いいえ,それは花でなくて,鳥なのでしょうか。
そうカモメが一羽,羽を休めているようにも思える小さいものが,ぽつんと見えるのでした。
お医者さんは, 急に, 頭がくらくらして,目をつぶりました。ほんの,二,三秒。
それから目を開けた時, お医者さんは,なんと,自分がその海岸に,ぽつんと立っていることに気づきました。
一面青い海原。
長い長い海岸線。
そして,ほんの五メ-トルほど先に, カモメが一羽 , 羽を休めていました。

「しめた。」 お医者さんは,両手を伸ばすと, 後ろから,ぬき足差し足近寄りました。
そっと,そっと,・・・・・・。
けれど,ほんの二,三歩近ずいただけで,鳥は, ぱあっと,翼をひろげたのです。
まるで,つぼみの花が開くように。
そして,ついと,飛び立ちました。
「しまった。」 お医者さんは, 追いかけました。
「おおい,待てえ,待てえ。」
お医者さんは,走りました。
ただもう,めちゃくちゃに走りました。
走りながら,お医者さんは,自分が今,少女の耳の中にいることを,なんとなく分かっていました。
ちょうど人間は皆,自分が,地球の上にいることを,分かっていながら,忘れているように。
ともかく,あの二秒ほどの間に,何かがあったのです
お医者さんの体が, 虫のように小さくなるか, 少女の耳が, 途方もなく大きくなるか,それとも, もっと別のなにかが起きたのです。
でも, お医者さんは, そんな事をあれこれ考えていませんでした。
鳥をつかまえることで, 頭はいっぱいでした。
あれをつかまえてもどらなくては, 診療所の名前にかかわるような気がしました。
けれど, カモメはずんずん高く上がっていき, やがてゆらりと海へ出ました。
「あっ, ああ,ああ。」 お医者さんは, 砂の上にぺたんと座って, カモメを見送りました。と,突然, 「ねえ,早くして, 早く, 早く。」という声が, まるで, かみなりにように辺りにひびいたのです。
お医者さんは, 思わず目をつぶりました。ほんの, 二, 三秒。
「どうしてもだめ?」
そんな声がして,お医者さんがはっと目を明けると, 少女がじっと自分を見つめていました。薄暗い診療所でした。
「秘密, 取れませんか」と少女はたずねました
お医者さんは, すっかりどぎまぎしてうなずくと,
「ええ。今, のがしてしまいました。」と,小さな声で答えました。
「今日は, 少し疲れているんでね。」
すると,少女は立ち上がって, とても悲しい顔をして, 「じゃあ,もうだめだわ。」と言いました。
「日が沈んでしまったもの。あの人, 鳥になってしまったわ。」

お医者さんは, うつむきました。何だか, とてもすまない思いでいっぱいでした。
少女は黙って, 帰っていきました。診療室のカーテンがしゃらんとゆれました。
耳のお医者さんは, 大きな溜め息をついて, 自分の椅子にどしんと座りました。

この時です。お医者さんは, 目の前の椅子の上に, 白いものが散らばっているのを見たのです。
「・・・」お医者さんは, それを取り上げて, しげしげとながめました。

羽でした。 それも, カモメの。お医者さんは,驚いて立ち上がりました。
それから,しばらく考えて,
「なるほど。」と, うなずきました。
「教えてやらなきゃいけない! 」
そうさけぶと, お医者さんは, 外へ飛び出しました。夕暮れの道を, いちもくさんに走りました。

あの子は, 知らずにいるんだ。自分も, カモメなんだっていうことを。
たぶんあの時, 海女が落とした赤い実を食べた雌のカモメなんだっていうことを,ちっとも知らずにいるんだ。>

耳のお医者さんは走りました。
少女の耳に中に, もう一つの, 素敵な秘密を入れてあげるために, 一心に, 追い掛けていきました。

短編集「きつねの窓」鳥より

作者 安房 直子 1943 東京都に生まれた。児童文学者。 作品に 「ハンカチの上の花畑」「白いおうむの森」「銀のくじゃく」「きつねの窓」などがある。1993 没


〔現在比較的入手しやすいと思われる作品集〕
「夢の果て」(瑞雲舎、2005年)
収録作品=ほたる/夢の果て/声の森/秋の風鈴/カーネーションの声/ひぐれのひまわり/青い貝/天窓のある家/奥様の耳飾り/誰にも見えないベランダ/木の葉の魚/花の家/ある雪の夜のはなし/小鳥とばら/ふしぎな文房具屋/月の光/星のおはじき

「きつねの窓」(ポプラポケット文庫、2005年)
*ポプラ社文庫1980年版の「きつねの窓」の新装版
収録作品=きつねの窓/さんしょっ子/夢の果て/だれも知らない時間/緑のスキップ/夕日の国/海の雪/もぐらのほった深い井戸/サリーさんの手/鳥

「風と木の歌」(偕成社文庫、2006年)
*1972年、実業之日本社より発行された作品集の文庫版
収録作品=きつねの窓/さんしょっ子/空色のゆりいす/もぐらのほったふかい井戸/鳥/あまつぶさんとやさしい女の子/夕日の国/だれも知らない時間

「白いおうむの森」(偕成社文庫、2006年)
*1973年、筑摩書房より発行された童話集の文庫版
収録作品=雪窓/白いおうむの森/鶴の家/野ばらの帽子/てまり/長い灰色のスカート/野の音

「銀のくじゃく」(筑摩書房、1975年)
収録作品=銀のくじゃく/緑の蝶/熊の火/秋の風鈴/火影の夢/あざみ野/青い糸

「南の島の魔法の話」(講談社文庫、1980年)
収録作品=鳥/ある雪の夜の話/きつねの窓/沼のほとり/さんしょっ子/南の島の魔法の話/青い花/木の葉の魚/夕日の国/きつねの夕食会/もぐらのほったふかい井戸/だれも知らない時間

●重版で入手しやすくなっている作品集
「花のにおう町」(岩崎書店、1983年)
収録作品=小鳥とばら/黄色いスカーフ/花のにおう町/ふしぎな文房具屋/秋の音/ききょうの娘

●「うさぎ屋のひみつ」(岩崎書店、1988年)
収録作品=うさぎ屋のひみつ/春の窓/星のおはじき/サフランの物語

●『春の窓~安房直子ファンタジスタ~』(講談社X文庫ホワイトハート、2008年11月)
収録作品=黄色いスカーフ/あるジャム屋の話/北風のわすれたハンカチ/日暮れの海の物語/だれにも見えないベランダ/小さい金の針/星のおはじき/海からの電話/天窓のある家/海からの贈りもの/春の窓/ゆきひらの話

●「ひぐれのお客」(2010年5月、福音館書店)
収録作品=白いおうむの森/銀のくじゃく/小さい金の針/初雪のふる日/ふしぎなシャベル/ひぐれのお客/(エッセイ)絵本と子どもと私

●「遠い野ばらの村」(2011年、偕成社文庫)
収録作品=遠い野ばらの村/初雪のふる日/ひぐれのお客/海の館のひらめ/ふしぎなシャベル/猫の結婚式/秘密の発電所/野の果ての国/エプロンをかけためんどり

●「風のローラースケート」(2013年、福音館文庫)
収録作品=風のローラースケート/月夜のテーブルかけ/小さなつづら/ふろふき大根のゆうべ/谷間の宿/花びらづくし/よもぎが原の風/てんぐのくれためんこ

●電子書籍発行
「銀のくじゃく」(筑摩書房、2013年9月-紙の本は1975年発行-)
収録作品=銀のくじゃく/緑の蝶/熊の火/秋の風鈴/火影の夢/あざみ野/青い糸
kindle版
http://www.amazon.co.jp/dp/B00F5W0EHC/

「白いおうむの森」(筑摩書房、2013年9月、-紙の本は1973年発行-)
収録作品=雪窓/白いおうむの森/鶴の家/野ばらの帽子/てまり/長い灰色のスカート/野の音
kindle版
http://www.amazon.co.jp/dp/B00FB3FXAS/

安房直子コレクション 偕成社

「安房直子コレクション1 なくしてしまった魔法の時間」(偕成社、2004年)
収録作品=・さんしょっ子 ・きつねの窓 ・空色のゆりいす ・鳥 ・夕日の国 ・だれも知らない時間 ・雪窓 ・てまり ・赤いばらの橋
・小さいやさしい右手 ・北風のわすれたハンカチ・エッセイ

「安房直子コレクション2 見知らぬ町ふしぎな村」(偕成社、2004年)
収録作品=・魔法をかけられた舌 ・空にうかんだエレベーター ・ひぐれのお客 ・ふしぎな文房具屋 ・猫の結婚式 ・うさぎ屋のひみつ ・青い花
・遠い野ばらの村 ・秘密の発電所 ・オリオン写真館 ・海の館のひらめ ・ふしぎなシャベル ・海の口笛 ・南の島の魔法の話
・だれにも見えないベランダ ・エッセイ

「安房直子コレクション3 ものいう動物たちのすみか」(偕成社、2004年)
収録作品=・きつねの夕食会 ・ねこじゃらしの野原【すずめのおくりもの・ねずみの福引き・きつね山の赤い花・星のこおる夜・ひぐれのラッパ・ねこじゃらしの野原】
・山の童話 ・風のローラースケート【風のローラースケート・月夜のテーブルかけ・小さいなつづら・ふろふき大根のゆうべ・谷間の宿・花びらづくし・よもぎが原の風・てんぐのくれためんこ】
・エッセイ

「安房直子コレクション4 まよいこんだ異界の話」(偕成社、2004年)
収録作品=・ハンカチの上の花畑 ・ライラックとおりの帽子屋 ・丘の上の小さな家 ・三日月村の黒猫 ・エッセイ

「安房直子コレクション5 恋人たちの冒険」(偕成社、2004年)
収録作品=・天の鹿 ・熊の火 ・あるジャム屋の話 ・鳥にさわられた娘 ・べにはらホテルのお客 ・エッセイ

「安房直子コレクション6 世界の果ての国へ」(偕成社、2004年)
収録作品=・鶴の家 ・日暮れの海の物語 ・長い灰色のスカート ・木の葉の魚 ・奥さまの耳障り ・野の音 ・青い糸 ・火影の夢
・野の果ての国・銀のくじゃく ・エッセイ

「安房直子コレクション7 めぐる季節の話」(偕成社、2004年)
収録作品=・緑のスキップ ・もぐらのほったふかい井戸 ・初雪のふる日 ・エプロンをかけためんどり
・花豆の煮えるまで--小夜の物語【花豆の煮えるまで・風になって・湯の花・紅葉の頃・小夜と鬼の子・大きな朴の木】 ・うさぎ座の夜 ・エッセイ
・年譜 ・作品目録

【偕成社 図書サイト】
http://www.kaiseisha.co.jp/index.php?page=shop.product_details&flypage=flypage_set.tpl&product_id=6097&vmcchk=1&option=com_virtuemart&Itemid=78

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2017年5月14日 (日)

安部公房『R62号の発明』

失業して運河に身を投げ自殺をしようとしていた機械技師は、学生から声をかけられ、死体を売ってほしいと頼まれる。そのアルバイト学生から事務所のあるビルへの地図を渡された。
事務所の殺風景な窓のない部屋に通され、ベッドに拘束された彼は、脳の手術をされてロボットR62号となる。
ビル地階ホールで開かれた国際Rクラブの第一回大会に集まった、代議士、高官、銀行の頭取、大企業の重役たちを前に、R62号が披露目される。所長は「人間の果たすべき役割は機械のよきしもべとなることである」と演説して、クラブの事業計画に、将来は機械の血液成分たる大多数の人間を、すべてロボット化する目標に、技術ロボット・R62号を完成させたと発表。

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↓安部公房「R62号の発明(1953年)」より抜粋。

  そのころビルの地階のホールでは、国際Rクラブの第一回大会が開かれていた。熱帯魚の水槽に装置した照明で、謎めいた光のひだがモザイクの天井にふるえ、厚い一枚ガラスの長テーブルには、カクテル用のつまみものが、世界地図の模様に並べられていた。ちょうど所長の挨拶がはじまったところである。

  「というわけでありまして、わがロボットもこの62号をもってついに工業的段階に到達し、ここにご披露をかねてクラブの結成をみた次第なのであります。
  さて、あらためて申上げるまでもないのでありますが、わがクラブのもつ歴史的な意義を、ここで再確認してみたい。わがクラブの名称であり、そしてその諸君の胸に黄金色に輝くところの、Rとは、いったい何ものであるか?    むろん、ロボットのRであります。だが、それだけではない、実に複雑多様、深遠なる意味をもっているのであります。ちなみにその一部を、ほんのごく一部を申しあげますれば、まずクラブの象徴といたしまして、レイスすなわち人類のR、ルールならびにレインすなわち支配と権力のR、リッチすなわち富のR、レヴァイヴァルもしくはレアクションすなわち復古のR、レセットルすなわち植民地復活のR(拍手)ライトすなわち正義もしくは右翼のR、(拍手)」

所長はちょっと口をつぐんだ。給仕——ツノがはえているところをみるとロボットにちがいない——がカクテルの盆をはこんできたのである。今日おためしいただくカクテルも、すべてRではじまる名前をもってます。今おくばりしたのはロップ、つまり強盗というので、ちょっと酸味がきつうござんすかな    ハンカチで軽く唇をおさえ、先をつづけた。

「次に、ロボットの記号として見ますれば、ラショナリゼーションすなわち産業合理化のR(拍手)ラットすなわちストライキ破りのR(割れるような拍手)レギュラーすなわち忠誠なるもののR(拍手)さらにラッシュすなわち突撃隊員のR    (まだあるぞ!    と叫ぶ声——日本語のラセツのR、これはね、チンポを切ったやつのことだってさ、ワハハハ    )さよう、まだまだ、いくらでもあるのであります。そこで私は次のような提案をいたしたい。クラブを実行力あるものとするため、Rのつくいくつかの支部をもうけて、機動的な組織にする。これもほんの一案でありますが」とすばやく手帳をくって、「再軍備のためのレミリタリゼーション・クラブ、情報入手のためのレポーター・クラブ、競技場と選挙のナワバリを支配するためのリング・クラブ、実業家のためのレンースつまり資源クラブとレイクすなわち熊手クラブ、工業家のためのレクレイムすなわち未開地開発クラブ、なお文化人のためのリリージャンすなわち宗教クラブ、密輸入者や亡命者のためのランナー・クラブ、    あ、ちょっとお待ちください」と新しくくばられたグラスを手にして、ここでわれわれを選ばれた全能の神を祝福して乾杯したい。このカクテルはレジュヴィネーション、すなわち回春と呼ばれておりまして、ホルモンをだす南洋の珍植物ワンダの果汁を配合したものです。どうぞ    と客の動揺にはかまわず、一気に飲みほして、「ここにお集りねがったクラブ員諸君は、代議士、高官、銀行の頭取、大企業の重役などそれぞれ神によって選ばれた今日の、そして明日の日本の指導階級であります。(拍手)この皆さんに、いまお話したところの各Rから専門に応じて適宜、一つもしくは数個のRをえらんでいただき、その責任者になっていただきますならば、わがRが事実上、日本支配の象徴となること必定ではありませんか!」   
熱狂的な拍手    提案!  と叫ぶ声——そん中に一つ、ロマンス・クラブちゅうようなもんを入れてくれんもんかのお。あざらしのようなひげをはやした豪傑、和服の上に大きな勲章をリボンでつっている。何者であろうか、居並ぶ紳士諸君も声を合わせて愉快そうに笑い、すこしも気分をそこねた様子はない。「閣下にはむしろ」と所長も微笑をうかべ、「帯勲者のためのレガリヤ・クラブを組織していただきたいもんですなあ    しかしむろん、ロマンス・クラブも結構なのであります。実をいうと、私自身、類似の提案をしようと思っておった。とくに外部に対してクラブの機密を守るため、カムフラージの目的をもって、またわれわれといえども時には英気を養わんといけませんからな、そうしたごくやわらかいクラブをもうけることは、絶対必要なのである。(拍手)その場合のRは親善を意味するラブロシマーンのR、ドンチャン騒ぎのランダンのR、ルーレットのR、ロータリーのR、あるいは婦人と一夜をともにするローズ・クラブのR、    本日の会も後半はさっそく、その名もかぐわしきローズ・クラブに切りかえる予定でありますが、    (割れるような拍手)しかし、諸君、それまでの一、二時間を、天下国家の大事のために耳傾けていただきたいのである!」

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1953年(昭和28年)、雑誌『文學界』3月号に掲載。単行本は1956年(昭和31年)12月10日に山内書店より刊行。文庫版は新潮文庫で重版。

R62号は経営不振の高水製作所に貸与され、その間自由に仕事させる。その製作所は、彼がかつて馘になった会社だった。アメリカの技師が来ると考えていた高水社長は彼を見て驚いたが、「R62号君の頭は完全にアメリカ製だ」と国際Rクラブの所長の説明と、登記がすめば高水もクラブに入会できる条件で納得する。
7か月経ってR62号の発明した、新式工作機械の試運転が行なわれ、高水製作所に関係者が集まった。工場外では労働者たちが集結して労働運動をしていた。R62号の機械に始動スイッチが押されると、高水社長が機械に抱き込まれた。R62号の説明どおりに機械は作動を続け、社長の指は次々と切断された。血だらけになり社長は追いつめられ、組合運動の労働者たちが「アメリカに売るな」と工場になだれ込んで配電盤のスイッチを切ってくれるのを願った。
しかしR62号の発明した新式機械は、淡々と刃物を動かし続け、社長は惨殺されるのだった。機械と化した人間が機械を発明して、人間に復讐するパラドックスが描かれる。

 

 

2017年5月 6日 (土)

『母の記憶に』ケン・リュウ

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『母の記憶に』ケン・リュウ

暖かな幻想と鋭い知性の交錯を透徹した眼差しで描いた16篇を収録。今アメリカSF界で注目を集める『紙の動物園』著者、待望の第二短篇集。
http://www.hayakawa-online.co.jp/smartphone/detail.html?id=000000013515
〈収録作品〉烏蘇里羆/草を結びて環を銜えん/重荷は常に汝とともに/母の記憶に/存在/シミュラクラ/レギュラー/ループのなかで/状態変化/パーフェクト・マッチ/カサンドラ/残されし者/上級読者のための比較認知科学絵本/訴訟師と猿の王/万味調和/『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」(〈パシフィック・マンスリー〉誌二〇〇九年五月号掲載)

【ケン・リュウ】1976年中華人民共和国甘粛省生まれ。2011年に発表した短篇「紙の動物園」で、ヒューゴー賞・ネビュラ賞・世界幻想文学大賞という史上初の3冠に輝く。その後も精力的に短篇を発表、2015年には初の長篇となる『蒲公英王朝記』を刊行した。中国SFの翻訳も積極的におこなっている。アメリカ、マサチューセッツ州在住 。

ケン・リュウ第一短篇集『紙の動物園』は作品レベルが高く、話題になり評価も良かった。日本オリジナル編集で傑作だけ選りなので、第二短篇集となる『母の記憶に』が杞憂された。しかし全16篇には長い作品も短い作品もあり、500ページを豊かな気分で読み切らせる作者の筆力は見事である。
https://www.google.co.jp/amp/huyukiitoichi.hatenadiary.jp/entry/2017/05/01/080000%3Famp%3D1

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2017年4月11日 (火)

どこまでみんなバカになるのか

スタジオジブリ「熱風」4月号特集は、橋本治さんのロングインタビュー。

イギリスのEU離脱、トランプ大統領の誕生など、世界の仕組みが変革している。「バカの最終局面に入るんだと思うんですけどね。今は、右傾化というよりも、バカになっていると言ったほうが早いと思いますけどね」

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プラザ合意は日本のバブル経済だけでなく、世界の混沌の始まりであった。社会と切り離されて、根拠のない自我を肥大させてしまった人々が、云々でんでん総理など、混沌を過ぎている風潮を作っている。

「どこまでもバカになると人間は滅びる」黙っているうちに、世の中がどんどんヘンな方向へ流されて行く。そしてその結果はなにもかもすべて、黙っていた人たちの上に覆い被さってくる。映画やアニメーション制作についても、同じような風潮があると、後半は色々と語られている。

スタジオジブリ「熱風」4月号
http://www.ghibli.jp/shuppan/np/

 

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羽衣ストーブ館

  • 静岡新聞 2001年5月22日記事
    フランスを中心としてヨーロッパで製造されたアンティークストーブ100点以上はひとりの日本人個人によって南仏を中心に長期コレクションされたものであります。 ◆南仏より海を渡ってやってきたアンティークストーブ100台たちは清水港へ上陸して、東海大学社会教育センターに移築した江戸時代に作られた曲り屋の屋敷のなかに展示された。 ◆鋳物ストーブ100台たちは、その後も数奇な運命をたどることになる。
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  • _0 愚者
    タロットアルカナの22枚には、世界の変化を表すことが記されています。カードの意味を知るには、図案のもつ表のイメージから解放されることが大切です。

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ペンギンタロットの原画

  • 0の愚者から21の宇宙(世界)まででひとつの話が結ばれる
    兆しを理解して現実なるものを深くたのしく感知する訓練カードです。 タロットを機能させるには慣れ親しむことからはじまります。 まだ目には見えていない物事や潜在的な事柄を導き出す道具でもあります。 各アイコンをクリックすると、21のカードが観れます。