1997年テレビシリーズが始まった「踊る大捜査線」は、事件の謎解きをしていく刑事ドラマ。警察庁と警視庁で事件を指揮するキャリア官僚と、所轄の警察署で実際に捜査する刑事たちとの衝突を風通しが悪い警察組織の縦割り社会を映しだした。
このドラマで所轄の刑事を代表するのが湾岸署で働く青島俊作(織田裕二)なら、キャリア官僚の“顔”として登場するのが室井慎次。
テレビドラマの第1話では脱サラして交番勤務から、念願の刑事になった青島の特捜本部での初仕事が湾岸署に臨場してきた室井の運転手だった。
はじめ所轄の現状を知らず、刑事たちを手駒のように扱う室井だが、自分の正義感に忠実な青島の熱意ある行動に触れて、やがて彼と心を通わせるようになる。
そして最終回で、室井は「捜査から政治を排除して、所轄と本庁の壁を取り払って、捜査員全員が信じたことをできるようにしたかった」と自分の夢を語り、青島もそのために組織のなかでトップになってくれと、室井に希望を託した。理想を共有した2人の、警察組織を変える約束。それがどのように果たされていくかが、以降の「踊る大捜査線」シリーズ全体のテーマになった。
『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』(03)では、湾岸署管内で連続殺人事件が発生する。犯人はリストラされたサラリーマンたちで構成された命令系統が存在しない個人の集団で、事件をトップダウンの指揮系統を駆使して解決しようとする管理官・沖田仁美(真矢ミキ)の方法論が通用しない。
これに対して、後半で室井が彼女に代わって事件捜査の指揮を執るが、彼のやり方は所轄の刑事それぞれの情報を、役職や階級も無視してフルに活用していく。現場の捜査員を信頼して行動するリーダーの室井を中心とする“組織”と、“個人”の集まりである犯罪者の戦いとなった。事件解決後に青島が放つ「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」というセリフは、理想に向かって一歩進んだ言動。
その後に室井は北海道や広島に左遷された時代もあったが、順調に組織のなかで出世して『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』(12)では、組織改革審議委員会委員長に就任。ついに警察組織を自ら変えるポジションに就いた。それから12年。新作映画の特報で室井はいま、故郷の秋田県に帰って無職である衝撃の事実が明かされた。
【予告編】https://youtu.be/S2Er4WxGkZc?si=NAKbAf73q_1rBy8a
過去シリーズに登場した重要人物も絡んでくる『室井慎次 敗れざる者/生き続ける者』
そして今回の2部作で、独身で秋田の田舎に暮らす室井は、犯罪に絡んだ背景を持つ少年たちと生活を始めて、地元の人から疎まれている。
さらには『踊る大捜査線 THE MOVIE』(98)に登場した猟奇的殺人犯で、『踊る大捜査線 THE MOVIE 3 ヤツらを解放せよ!』(10)では犯人を陰で操る黒幕でもあった日向真奈美(小泉今日子)の娘、杏(福本莉子)と出会い、過去の事件と向き合う。
日向真奈美は逮捕前、Webサイト「仮想殺人事件ファイル」を運営していて、このサイトを介して犯罪に無関係な人間を犯罪者に変貌させてしまう、カリスマ的犯罪者。
『ヤツらを解放せよ!』の主犯、須川圭一(森廉)も彼女に感化されて罪を犯した。この時、再度捕まった彼女は「圭一はまだいるぞ。いたるところに」と捨て台詞を残している。その真奈美の娘である杏も、室井と暮らす少年たちに言葉で影響を与える存在のようで、人の心を操る“最悪の個人犯罪者”である母親の血を受け継いだ杏と、組織の力を信じて変えようとした室井との関係が見どころ。
果たされていない青島との約束、室井が警察を辞めなくてはならなかった理由、秋田まで追ってくる最悪の殺人犯、日向真奈美の影響力。様々な謎を孕んで、新たな伝説が映しだされていく。
【挿入歌】
https://youtu.be/sQGGEkfYGZY?si=N27FTDdrmFYmlufC
この2部作では室井のキャラクターと柳葉自身のイメージが密接に重なり展開するのだろうか。室井慎次にとっても柳葉敏郎にとっても集大成となる映画になるのだろうか。
期待が膨らむ最新作である。